父は違法薬物、祖母は養育費を持ち逃げ 母子家庭で育ったYA-MANの壮絶な過去

格闘技イベント「Yogibo presents THE MATCH 2022」で“進化する問題児”芦澤竜誠を109秒でマットに沈めた驚異の6連勝中のYA-MAN。試合前から乱闘、舌戦を繰り広げた中での勝利に世間の注目の的となった。これだけ人気になっても「底辺からここまで来た」と言う。そんなYA-MANの壮絶な生い立ちと逆襲の始まりに迫った。

YA-MANが自信の逆転人生を明かした【写真:ENCOUNT編集部】
YA-MANが自信の逆転人生を明かした【写真:ENCOUNT編集部】

父は違法薬物、養育費は持ち逃げ

 格闘技イベント「Yogibo presents THE MATCH 2022」で“進化する問題児”芦澤竜誠を109秒でマットに沈めた驚異の6連勝中のYA-MAN。試合前から乱闘、舌戦を繰り広げた中での勝利に世間の注目の的となった。これだけ人気になっても「底辺からここまで来た」と言う。そんなYA-MANの壮絶な生い立ちと逆襲の始まりに迫った。(取材・文=島田将斗)

 お父さんが違法薬物をやっていて――。物心ついた頃にはすでに母子家庭だったYA-MANが壮絶な過去を告白した。

「自分の家庭は母子家庭でした。本当に生まれてすぐぐらいに離婚したらしいんですけれど、離婚した原因はお父さんが違法薬物に手を出して、全然家に帰ってこなかったことです」

 淡々と口にするが、これは始まりに過ぎない。さらなる不幸がYA-MANの家庭を襲った。

「父方の祖母が会社を創業していて、年商10億ぐらい。ものすごく資産を持っている家系だったんです。離婚するときに祖母から3000万円ぐらいもらったらしいのですが、母はそのとき24歳ぐらい。自分で管理ができないとのことで、(YA-MANの)母方の祖母にお金を預けていたそうです。

 母と僕(1歳ごろ)は、母方の祖母と祖父とそのときに住んでいました。母が夜にスナックでバイトをしてという生活を送っていたそうなのですが、帰宅すると、祖母と祖父がいなかったみたいで、どこを探してもいなくて連絡も取れずに自分だけ家に取り残されたそうです。よくよく調べてみたら、(祖母と祖父が)お金を持って夜逃げしちゃったらしいです」

 今でこそこの事実を知っているが、幼少期のYA-MANは何も気にせず過ごすことができた。「苦労してたと思ったことはない」と断言するが、疑問に感じたのは小学校時代の冬休みだった。周りの友人が親の実家に帰省をするなか、自身にはなかった。

「なんでだろう」。疑問は少しずつ違和感に変わっていった。夜、家に親がいない。YA-MANは段々とグレていくようになっていった。当時をこう回想する。

「お母さんは夜、スナックを自分で経営していて家にいない。やっぱり野放しというか、自由になるんです。その間に悪い仲間と一緒にいて、けんかとかそういうのに発展したり……。暴走族みたいのには入っていなかったけれど、ただただけんかに明け暮れる毎日を送っていました」

 どうしてけんかに発展するのか。「埼玉で自分を知らない人はいない」と豪語するゆえんについても明かした。

「自分は結構代理で行くことが多かったです。誰かがもめて、じゃあ俺が行くみたいな。自分でもめ事を作るみたいなのは、あまりなかった。『あいつとけんかすることになったから、行かないか』と、それで地元で名前は売れていましたね」

 愛称は“キングオブストリート”。しかし、けんかでは1度だけ負けたことがあった。

「1個上に埼玉で1番強いと言われていた人がいました。承認欲求なんですかね。やっぱ強いって認められたかったので、『俺も強い』『あいつには絶対負けないよ』というのを周囲に言いまくっていたら、それが相手の耳に入ったみたいでした。本当にある日突然、何の前触れもなく中学校に乗り込んできて、橋の下に連れていかれてボコボコにされました。やばかったです(笑)」

喧嘩に明け暮れた少年がいまや東京ドームで脚光を浴びている【写真:ENCOUNT編集部】
喧嘩に明け暮れた少年がいまや東京ドームで脚光を浴びている【写真:ENCOUNT編集部】

高校3年でアルファベットが分からない状況も大学受験を決意

 けんかに明け暮れた毎日だったが、高校2年時に転機が訪れた。母のガンだ。唯一の肉親、頼れる人物がいなくなってしまうかもしれないという不安がYA-MANを変えた。

「周りの家族がいないので、母が死んだらどうすんだろう。誰が面倒見てくれるんだろうとすごく考えました。そうなったときに1人で生きていく力をつけないとダメだなと考えたんです」

 1人で生きていく力――。頭に浮かぶのはひとつ、母のスナックを訪れる客が参考になった。

「1人で生きていくって要は金を稼ぐこと。『どうすれば金を稼げるんだろう』と考えました。お母さんのスナックに来てるお金持ちの方々が建設系の方が多くて『建設系に行けばお金持ちになれるのかな』と。『どうやったら建設系に行けるんだろう』から勉強して建築学科に進むのが一番早いかなという考えに至りました」

 けんかに明け暮れた少年が大学を目指し始めた。1日15時間の勉強を敢行する。

「高3のときにアルファベットが全部言えなくて(笑)。AからZまで言えなくて、アルファベットをなぞるところから始めました。しかも建築って理系なんですよ。数学とかも中学生のところから勉強しましたね」と照れくさそうに笑った。

 やんちゃしていた少年がいきなり勉強。周囲から止められることはなかったのだろうか。決意は固かった。

「本当に埼玉県でも結構底辺の高校で、一般受験が自分だけだったんですよ。大学に行くとしてもみんな推薦でした。孤独ではあったすね。自分が勉強していた時期ににみんな騒いだりしていたので、『でも俺はこいつらと同じ人生を歩まねーぞ』っていう信念で頑張っていました」

 その後、YA-MANは東海大学の建築学科に進学。キックボクシング部に入り、現在所属するジム「ターゲット渋谷」に出会うことになった。練習もしながら一級建築士の受験資格も取得。まさに文武両道を己の人生で体現した。

「THE MATCH」前、K-1対抗戦に挑むRISEを“黒船”と表現。試合後の一夜明け会見では、今後のRISEを“三国志”で分かりやすく例えた。

 壮絶な過去を乗り越え、スター街道を着実に歩んでいる。ファイトスタイルからは想像できない、クレバーな一面もある。試合内容で、マイクで観客を魅了する唯一無二なファイターは、新たな格闘技界の顔になる予感がする。

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