那須川天心VS武尊による「世紀の一戦」が行われた「THE MATCH 2022」（6月19日、東京ドーム）。セミファイナルでは、シュートボクシング（SB）の海人が“K-1の怪物”野杁正明から、第5試合では同じくSBの笠原友希がK-1の中島千博からともに白星を上げ、「SB最強」を満点下に示した。そこでSBの創始者であるシーザー武志会長を直撃。愛弟子の活躍と、天心VS武尊を見た感想も聞いた。（取材・文＝“Show”大谷泰顕）

「ありがたいね、嬉しいよ。海人にしても（笠原）友希にしても、『SBが一番じゃなきゃいけない』って言ってくれてね」

　シーザー会長に、あらためて「THE MATCH 2022」で結果を残した海人と笠原友希について水を向けると、そんな答えが返ってきた。

「海人の試合に関しては、野杁に対して引かなかった。距離を詰められてもね。あれがよかった。海人って、カラダの中から打てるんですよ。外から打つ感じじゃない。そういう意味で強かったと思います。上手く潰したなって。あれをやられたら何もできないよね、野杁は。（海人は）よく考えているよね」

“SBの最高傑作”とも呼ばれる海人だが、業界における評価もうなぎ登り。笠原友希にしても、KO寸前まで相手を追い込んだ点では非常に評価が高い。

「（笠原）友希はあれだけいいハイキックが入ったのに、そこを攻められなかったのがちょっと甘かったな。あれ、KOしていたら、（「THE MATCH 2022」では）KOがあんまりなかったので、ドッカーン！ってなったと思う。（KO賞の）50万円を損したな（笑）」

　やはりSBの選手が活躍し、「最強」を実証できたのはシーザー会長にとっても喜ばしい以外の言葉がないだろう。

　早くも海人は8月21日にエディオンアリーナで開催される「Cygames presents RISE WORLD ERIES 2022 OSAKA」への参戦が決定し、「日本×世界」を闘う。相手は城戸康裕や日菜太といった日本人ファイターを下した経歴を持つ、強豪のサモ・ぺティと発表されている。

「海人は70キロぐらいで試合をすることになるかもしれないけど、海人は70キロもないんだよね。いつも増やしてやっているから。だから本当をいえば、ウエルターかスーパーウエルターのほうがいいんだろうけど、70キロぐらいのほうが結構、選手がいるじゃないですか。いないところで勝ってもつまらない。いっぱいいるところで勝負して、シュートボクシングの海人は強いなって言わせられるようにしていきたいね」

　シーザー会長によれば、笠原友希の兄・弘希（SB日本ライト級王者）も「THE MATCH 2022」への参戦交渉していたものの、今回は上手くまとまらなかったが、「RIZIN,37」（7月31日、さいたまスーパーアリーナ）に参戦すべく、交渉中だという。これが決まれば、SBの格闘技界制圧計画にまた一歩近づくことになる。続報を待ちたい。

「THE MATCH 2022」では、「世紀の一戦」と呼ばれた天心VS武尊も行われた。結果は天心が5-0のフルマークで武尊を下したが、シーザー会長の目に、この試合はどう映ったのか。

「あの試合は1ラウンド、（天心が）勝負を賭けたんじゃないかな。で、あれで決着がついたじゃない。あとはもう、天心が流したみたいになって。俺は、逆に言えば、天心が、武士の情けじゃないけど、グシャグシャにしないで、武尊のいいところも出させて、うまくやったんじゃないかと思う。そういう意味では、彼（天心）はなかなか思いやりがあるよね、というふうに俺は解釈しているんだよ」

　そう言って、幾多の修羅場をくぐってきたシーザー会長らしい見方を提示する。

「あれ、行けばもっと行けたでしょう。でも追わなかった」

　今回、TEPPRN GYMの那須川弘幸会長が、天心VS武尊戦の翌日にインスタグラムを更新。実の子である天心と、雌雄を決して闘った武尊に対しても、熱いメッセージとその思いをつづっていたが、そのなかには以下の記述も含まれていた。

「シュートボクシングの2人の選手は、シーザーイズムを継承し礼節から出る心技体の強さを感じ私もGYMを預かる身として心技体を兼ね備える選手を育成して行かなければならないと改めて感じました」

　これをシーザー会長に伝えると、そうかといった雰囲気で、こう話した。

「やっぱり武道家っていうか、格闘技なんかをやる人はとくに礼儀作法ができていないと、ただの暴れん坊じゃないですか。やっぱり礼儀作法をちゃんとして、挨拶ができる人間にならなきゃ、俺はダメだと思う。挨拶ができたり、思いやりの気持ち」

　さらに親子や家族という部分と指導との関係を力説する。
　
「親子ってのは、小さい頃からずっと一緒なわけでしょ。逆に天心パパと天心の親子愛っていうか家族愛、俺はいいなと思うよね」

「やっぱり指導ってのは、ただ技術だけちょこっと来て教えるだけじゃなくて、くだらないことでもいいから、いつも触れている。くだらないことでも話して、触れていると信頼ができて、この人の意見ならなんでも聞けるんだなって思っちゃう。そこの信頼関係っていうのが一番大事じゃないかな。そういう意味では親子っていうのは、海人のところもそうだし、お父さんなんてあんまり格闘技なんて知らないんじゃないかと思うけど、研究しているんだよね。勉強して」

　実際、那須川会長とはドームで言葉を交わしたりしたのだろうか。

「話したよ。『今日は行きます！　120%行きます！』って言ってたね。だから最初に行って、これで終わったなと思ったら、あとは、さっき言ったように、流して。武尊をグチャグチャにしないで。そのほうがいいじゃないですか。K-1さんもそのほうが助かるよ。グチャグチャにして負けたら困っちゃう」

　なにはともあれ、キックボクシングにとっては悲願ともいえる超満員の東京ドームでの大会を実現させた。しかも大観衆のいる前で、「SB最強」が証明できたことは、何よりも代え難い事実である。

　シーザー会長は言う。

「まだまだやりますよ。どんどん出していきますよ。若いのがいっぱいいるから。10代もいるしね。若い子が憧れる競技じゃないと、僕はダメだと思う。子どもたちがね。僕らもそうだった。そういう夢のあるような協会っていうか、団体をつくっていきたいですね」