中国漫画、電子コミック日本市場に本格参入 主流は「女性版半沢直樹」 仕掛け人は自信
拡大を続ける日本の電子コミック市場で、中国発の漫画作品が存在感を発揮し始めている。日本ではまだあまりなじみはないが、中国国内では日本と同様に「異世界転生もの」がトレンドで、自立したヒロインの活躍を描く「大女主(ダーヌージュ)」と呼ばれる“下剋上ストーリー”が人気という。これまで日本ではあまり例のなかった中国漫画の配信を仕掛ける電子書籍配信大手「株式会社BookLive」の担当者に、配信戦略の狙いや展望を聞いた。
古代宮廷転生との“2本柱” 意外な反響も 「BookLive」担当者に聞いた
拡大を続ける日本の電子コミック市場で、中国発の漫画作品が存在感を発揮し始めている。日本ではまだあまりなじみはないが、中国国内では日本と同様に「異世界転生もの」がトレンドで、自立したヒロインの活躍を描く「大女主(ダーヌージュ)」と呼ばれる“下剋上ストーリー”が人気という。これまで日本ではあまり例のなかった中国漫画の配信を仕掛ける電子書籍配信大手「株式会社BookLive」の担当者に、配信戦略の狙いや展望を聞いた。(取材・文=吉原知也)
2003年に日本で初めてフィーチャーフォン向けケータイコミック配信を始めた電子書籍配信の第一人者・淡野正氏が社長を務める同社は、漫画配信アプリ「ブックライブ fun」を今年5月に立ち上げた。6月末までの配信タイトル数は775作品で、国内:646タイトル、中国:98タイトル、韓国:31タイトルだ。従来から運営している総合電子書籍ストアとは別に、群雄割拠の漫画配信アプリへの参入。韓国籍で同社ライツビジネス部長を務める梁俊明氏は「レッドオーシャンな市場に、後発組として参入する中で、他社との差別化がキーワードになりました。そこで、漫画作品を輸入する手法を選び、中国漫画に目を付けたのです」。中国漫画に可能性を見いだしたという。
ここで「強み」となったのが、ユーザー数3億以上を誇る中国最大級の漫画プラットフォーム「快看(クワイカン)」との独占契約だ。快看をはじめとした25社以上の権利元から、中国漫画作品の提供を受けている。縦スクロールの“縦読み”でフルカラーの作品をそろえており、日本語に翻訳し、キャラクターや設定を日本向けに調整。現状のアプリ配信の実績は好調とのことだ。
中国漫画とはそもそもどんな作品が主流であるのか。同社ライツビジネス部で韓国出身の禹炫好氏と台湾出身の李雅茹氏によると、基軸は「2本柱」。1つは異世界転生もので、多いのが「古代宮廷世界」に転生するストーリーだ。ファンタジーの世界ではなく、時代劇のように昔の時代を舞台に描かれる。西暦1300~1600年ごろが中心で、日本で言うと室町から江戸初期にあたる。配信作品の中で代表的なものは、名医兼敏腕スパイの女性が古代宮廷にタイムスリップする「転生したら負け犬に!?」だ。
もう1つは、「大女主(ダーヌージュ)」。勝ち気で自立した女性が絶望的な状況を自力で乗り越え、ハイスペック男性と恋愛をするといったストーリーだ。よくあるイメージの“白馬の王子様”が現れるのではなく、自分の力で成り上がっていくのが特徴だ。言わば「半沢直樹の女性版」。梁氏は「中国でも社会における、いい意味の女性の台頭意識が高まっていることが背景にあり、中国で人気を集めています」と説明する。日本でも、破滅の運命を自分自身で変えようとする女性向けのジャンルに一定の人気があり、日本のユーザー・読者にも訴求できると考えているという。代表作は「スキャンダラスな女」だ。
ハイスペック女性の歩みを描く現代恋愛ものも“ウケる”
一方で、事前の予想とは異なり、日本で配信を始めてみると現代の恋愛ものも“ウケる”という側面も。フィアンセとの破談から立ち直ったハイスペック女性の歩みを描く「ヒョウ系彼氏の恋愛戦略」が好評で、意外な反響として受け止めているという。
同社がレッドオーシャンであってもウェブトゥーン分野にチャレンジする理由は、データを見れば明らかだ。インプレス総合研究所が2021年8月に発表した「電子書籍ビジネス調査報告書2021」によると、電子コミックの市場規模は2020年度で4002億円にのぼり、コミックだけでも前年度から約1000億円増加。また、出版科学研究所の報告によると、21年のコミック市場全体(コミックス、コミック誌、電子コミック)は計6759億円、そのうち電子コミックは4114億円と推計されている。巨大市場が膨張を続けているのだ。
こうした中で電子コミック界では、韓国発で縦スクロールに最適化したスマートフォン向け漫画「ウェブトゥーン」が世界を席巻している。縦スクロールは、描写の見せ方を変えたと言われており、映像のような表現方法で、アクションシーンをつなげて迫力を出すこともできる。今後の業界の成り行きをどう見るのか。前職のゲーム業界で世界の趨勢(すうせい)を見てきた梁氏は「従来の横読み漫画は衰退するのではなく、縦読みとの共存になると思います。横読み文化を取り入れた縦読みの新たなスタイルが生まれるかもしれませんね。それに、日本ではマンガ動画と言われる、漫画の描写に音を付けて映像に落とし込んだコンテンツが、中国やアジアで台頭してきています。日本では現状はプロモーション手法に使われることが多いですが、今後のマネタイズ展開等に注目しています」と語る。
ローンチしたばかりの中国漫画配信。同社はどう取り組んでいくのか。梁氏は「中国漫画において、どんなジャンル、ストーリーがハネるのか。現状は分析の段階にあります。他社との差別化を進めるために、よりいい作品を探していく必要があります。それと同時に重視したいのが、中国漫画のブランド化ではなく、作品を軸に展開するということです。特にいまの若いユーザーは、ブランド・レーベルではなく、作品自体の面白さで読むか読まないかの判断をしています。われわれは、対ユーザー向けに、作品ありきで面白いものをいかに提供できるかという視点で、訴求・マーケティングを進めていこうと考えています」と強調する。同社全体の今後については「電子書籍の配信だけでなく、漫画作品のアニメ化・実写化・グッズ化といったMD(マーチャンダイジング、商品開発)やIP(知的財産)事業の拡大を推し進めて、日本市場だけでなく、欧米・アジアの世界に向けた展開を広げていきたいです」としている。