竹中平蔵氏、「失われた30年」の日本社会に“カツ” 「1人1人が勉強してない」
経済学者で慶応大名誉教授の竹中平蔵氏(71)と、「2ちゃんねる」開設者で実業家の西村博之(ひろゆき)氏(45)の“コラボ”が話題を呼んでいる。YouTube討論番組「Re:Hack」での“激論”共演だけでなく、税制・社会保障・医療などをテーマに日本の未来を考え合った対談本「ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか?」(集英社)が刊行。そんな竹中氏は政治家の経験を持っている。独自視点の政治論を語り、日本社会に“カツ”を入れた。
構造改革を掲げた小泉純一郎氏は「すごく力強い」 参院議員経験も
経済学者で慶応大名誉教授の竹中平蔵氏(71)と、「2ちゃんねる」開設者で実業家の西村博之(ひろゆき)氏(45)の“コラボ”が話題を呼んでいる。YouTube討論番組「Re:Hack」での“激論”共演だけでなく、税制・社会保障・医療などをテーマに日本の未来を考え合った対談本「ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか?」(集英社)が刊行。そんな竹中氏は政治家の経験を持っている。独自視点の政治論を語り、日本社会に“カツ”を入れた。(取材・文=吉原知也)
竹中氏は過去に、2001年から小泉純一郎内閣で経済財政担当大臣や郵政民営化担当大臣などを歴任。04年夏に行われた参院選では比例代表で当選し、参院議員を務めた経験がある。政治家の本質をどう見るのか。
「政治家はワーッと激しく自分の意見を主張することもありますが、実際に話してみるとそうでもなく、人間的に魅力のある人が多い。そうじゃないと多くの票を集められないんですよね」
竹中氏と政治家と言えば、思い浮かぶのが、構造改革を掲げた小泉純一郎氏だ。抵抗勢力を押しのけるといったイメージで語られるだろう。
「それはすごく力強い。強いことを言わないと、政治の場ではリーダーシップを発揮できません。小泉さんはそれと同時に、すごく気配りをしてくれるんです。いろいろなことを考えられて能力のある人というのは、常にその両方を持っています」
時の政権の中枢にいた経験を持つ竹中氏は、内閣支持率についてこんな興味深い話を聞かせてくれた。
「近年の内閣支持率を見ていると、新型コロナウイルス禍の感染状況や物価の影響を受けているように思えます。これでは、単なる不満指数なのではないでしょうか。それで内閣が左右されるぐらいになるんだから、もう政治の人たちは大変だと思いますよ。さらには永田町全体が影響を受けてしまって。支持率が下がると、その内閣をみんなでつぶそうとするわけですよね。世論は大事ですが、政治というのは御用聞きじゃない。指導者民主主義という意味で、『私はこれがやりたい。それに反対なら私は辞める』というような、郵政民営化の時の小泉さんみたいな政治のスタイルは、今の永田町の雰囲気にはないですよね。自分が次にいかに当選するかということしか考えていないように見えます」
「失われた30年」と言われる日本経済の立て直しはどうすればいいのか。政策の提言とは。
「5Gインフラの拡大です。いろいろな活用法がありますが、MEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)や遠隔手術の実現、本当のIoT(モノのインターネット)ができることもそうです。例えば、森林の中でも田んぼの中でもすべてインターネットが通じるようにすれば、デジタル情報に基づいたデータ化が可能になり、農業や林業にもチャンスが広がります。
「政治家が腹をくくってリーダーシップを発揮していない」
そのためには、5Gの基地局アンテナが100万本ぐらい必要です。それを一気に設置することが大事。日本の従来のやり方のように何社にも重ねて投資するのではなくて、まず国が自ら設置して、それを民間に運営させる方式を採用するべきです。アメリカは80%が共同アンテナで、ベルギーなんて100%なんですよ。
私が提唱して実現しているもので、空港のコンセッションがあります。施設の所有としては国が持っていながら、運営を民間に任せる方式です。それに、関西国際空港、伊丹空港、神戸空港は民間による一体運営となっています。一般的には、運営を民間事業者が担うことで、いろいろと工夫を凝らし、活用の幅が広がります。空港で言うと、国際線・国内線・LCC(格安航空会社)と貨物をどうするかの弾力的な運用です。ぜひやったらいいと思うのは、羽田空港と成田空港の統合とコンセッションによる民間活力の利用です」
竹中流の日本社会へのアドバイスは。
「一言で言うと、政治家も、企業人も、個人も、努力をしなくなったということなんです。円安と言いますけれども、実際には実質実効レートが重要で、これが約50年ぶりの低水準なのです。これは何で決まるかというと、金利格差や原油価格の上昇などいろいろな要因がありますが、ここまで低下したというのは、経済の基礎的な力が落ちていることの表われです。それは政治家が腹をくくってリーダーシップを発揮していない、社長が思い切ってリスクテークをしてリーダーシップを発揮しない。そこに対する批判はあるのですが、より重要なのは日本人は1人1人が勉強をしていないですよね。日本人は人材劣化していると思いますよ。それとジャーナリズムにも、ものすごい問題があります。
厳しいことを言いましたが、1人1人がもう一度努力をすることです。福沢諭吉の『学問のすゝめ』はそういうことを説いているのではないでしょうか。1人1人が賢くならないとその国はだめですよ、という本だったんです。そこに立ち返ることが大事だと思っています」
□竹中平蔵(たけなか・へいぞう)、1951年、和歌山市生まれ。一橋大経済学部卒業後、73年に日本開発銀行入行。81年に退職後、大蔵省財政金融研究室主任研究官、ハーバード大客員准教授などを経て、2001年から小泉内閣で経済財政担当大臣、郵政民営化担当大臣などを歴任。現在、世界経済フォーラム(ダボス会議)理事などを務める。博士(経済学)。
対談本「ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか?」
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