瀬戸内寂聴さんの「最後の恋人」との日々 秘書・瀬尾まなほさんが学んだ子どもの可能性を信じる子育て論

瀬尾まなほさんは、昨年11月に99歳で亡くなった作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんの秘書を2013年から務めた。22年1月には、瀬戸内さんとの日々をつづった著書「寂聴さんに教わったこと」(講談社)を出版し、現在もさまざまなメディアで瀬戸内さんの秘書として活動しながら、22年3月には第2子を出産した。そんな瀬尾さんに瀬戸内さんと長男との関係や子育てについてのエピソードを聞いた。

瀬尾まなほさん(左)の第1子を抱っこする瀬戸内寂聴さん【写真提供:瀬尾まなほ】
瀬尾まなほさん(左)の第1子を抱っこする瀬戸内寂聴さん【写真提供:瀬尾まなほ】

秘書・瀬尾まなほさんの次男の名前は瀬戸内さんと選ぶ

 瀬尾まなほさんは、昨年11月に99歳で亡くなった作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんの秘書を2013年から務めた。22年1月には、瀬戸内さんとの日々をつづった著書「寂聴さんに教わったこと」(講談社)を出版し、現在もさまざまなメディアで瀬戸内さんの秘書として活動しながら、22年3月には第2子を出産した。そんな瀬尾さんに瀬戸内さんと長男との関係や子育てについてのエピソードを聞いた。(取材・文=猪俣創平)

 瀬尾さんは秘書になった後、19年12月に第1子となる長男を出産し、瀬戸内さんと親子で密な時間を過ごしてきた。そんな長男を瀬戸内さんは絶賛していた。

「瀬戸内は長男をものすごく褒めていて、この子はすごいかもしれない、ノーベル賞を獲るかもしれない、見た目がいいから舞台に立つかもしれない、と息子の可能性をすごく信じてくれていました」

 瀬尾さんは、瀬戸内さんについて「1人で生きてきた人」と説明した。

「瀬戸内は親類との関係はもちろんあるんですが、一緒に暮らしていたわけではなかったので、小さな赤ちゃんが育っていくところを間近で見続ける機会がなくて。お孫さんも海外にしますしね。なので私の息子の成長を見るのが新鮮だったのだと思います」

 瀬戸内さんは生前、瀬尾さんの長男に対して思い入れもひとしおだった。「私の子どもが生まれたとき、翌日に病院に来て抱っこしてくれたし、月に何度も会っていました。画家の横尾忠則さんとの往復書簡の中で私の子どもが生まれる前に『私の孫は、みんな女の子だけれど、まなほの子が自分の子どものような気がしてる』とも書いてくれたり、また『最後の恋人』と評してましたね」。

 その思いは一方通行ではなかった。「私の息子も瀬戸内のことが大好きでした。息子が瀬戸内を好きだということが、瀬戸内もすごくうれしかったようで、『子どもは邪気がないからいい』と言ってくれて、まっすぐ自分にぶつかってきてくれたのがうれしかったんじゃないでしょうか」と、思い出の日々を述懐した。

 子供が生まれて以来、瀬戸内さんとの会話は、瀬尾さんの息子の話ばかりになったという。「私と瀬戸内でいつも息子について話していて、やっぱりかわいいよねと、そういう話でヒートアップするんです。でも、周りから見たらバカだと思われるからやめようって言ってたんですよ。私たちに比べる対象の子がいないから分からないでしょって(笑)」と、“ベタぼれ”っぷりに2人で笑い合った。

瀬尾まなほさん【撮影:後藤鐵郎】
瀬尾まなほさん【撮影:後藤鐵郎】

第2子の名前は瀬戸内寂聴さんと選ぶ

 瀬尾さんはそんな瀬戸内さんの姿から、子育てについても学んだ。

「母親の私でもそこまで言う? って思うほど息子のことを褒めてくれて、認めてくれていました。当時はまだ2歳にもなっていなかったんですけど、『こんな小さいのに自分の意志がはっきりしていて、この子はすごいわ~』と毎回すごく褒めていて。自分の子どもでも、その子の可能性をこれほどまで信じられていないだろうなと思ったんです。でも、瀬戸内は息子が伸びるような環境作りをしているんだなって思うようになりました」

 22年3月に生まれた瀬尾さんの第2子を、生前の瀬戸内さんも楽しみに待っていた。

「『2人目ができたらいいね~』とずっと話していたんですね。瀬戸内が9月に入院して、10月の初めに退院して、またすぐに入院したんです。その10月に退院したときに妊娠を報告して、すごく喜んでくれました。でも、上の子が生まれてくる赤ちゃんにやきもちを焼くんじゃないかと心配してくれて、『そのときは先生にフォロー頼みますね』とずっと言っていたんです。だから、2人で遊ぶのをすごく楽しみにしてくれていたので、私も当たり前のように生まれてくる赤ちゃんを見てもらえるとそのときは思っていました……」

 瀬戸内さんが100歳を迎える22年は、瀬尾さんと共に新たな本の出版も控えていた。しかし、21年11月、瀬戸内さんは帰らぬ人となった。瀬尾さんは入院中の瀬戸内さんと、生まれてくる赤ちゃんについても語り合っていた。

「赤ちゃんの名前をいくつか考えていたときに、名前の候補を紙に書いて、一緒にそれを見てなんとなく話していたんですね。『これがいいね、これがいいかな?』って。でも、それが今考えればすごくよかったんです。生まれてからもそのことが頭の中にあったので、2人目の息子の名前は瀬戸内と一緒に選んだ名前に決められました」

 瀬尾さんは瀬戸内さんからの教えとともに、子どもの可能性を信じ、育児と仕事に奮闘を続けていく。

□瀬尾まなほ、1988年、兵庫県生まれ。京都外国語大学英米語学科卒。卒業と同時に寂庵に就職。2013年から瀬戸内寂聴の秘書を務める。2017年より共同通信社配信の連載「まなほの寂聴日記」を開始。著書に「寂聴さんに教わったこと」(講談社)などがある。

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