BiSHアイナ・ジ・エンド、下積み時代に感じた絶望感「明日、食べることもできない」

“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー6人がそれぞれ主演したオムニバス映画「BiSH presents PCR is PAiPAi CHiNCHiN ROCK’N’ROLL」が公開中だ。「リノベーション」(田辺秀伸監督)で心の悩みを抱えるダンサーを演じたアイナ・ジ・エンドが、BiSH以前の苦しかった下積み時代を語る。

下積み時代を語ったアイナ・ジ・エンド【写真:荒川祐史】
下積み時代を語ったアイナ・ジ・エンド【写真:荒川祐史】

オムニバス映画が公開中、心の悩みを抱えるダンサー役「自由にやらせてもらった」

“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー6人がそれぞれ主演したオムニバス映画「BiSH presents PCR is PAiPAi CHiNCHiN ROCK’N’ROLL」が公開中だ。「リノベーション」(田辺秀伸監督)で心の悩みを抱えるダンサーを演じたアイナ・ジ・エンドが、BiSH以前の苦しかった下積み時代を語る。(取材・文=平辻哲也)

 オムニバスのオープニングを飾る「リノベーション」はちょっと変わった物語だ。人生に行き詰まったダンサーが、自身を変えるべく引っ越しを考える。その内見先では、踊りとまばゆい世界が突然、現れる。雨乞いがあったり、中世ヨーロッパのような世界も展開されて……。

「ぶっちゃけ『意味分かんない』と思う人が多い気がするんです。私も、最初はどんな話か分からなかったし、なんなら周りのスタッフさんも分からなかった。映像は田辺監督の頭にしかなくて、理解して、具現化したい、という強い気持ちで撮影していったんです」

 撮影は2020年10月。全曲作詞作曲の1stアルバム「THE END」を発売する前だった。「音楽があるということで、『じゃあ、私やります』と言って、ダンスを振り付けたんですけど、曲作りは今よりもっと分からない状態で、友達に頼み込んで一緒に作っていった。本当に周りの人たちのおかげでできたっていう感覚がめっちゃあります」。

 主人公のダンサーはほぼ等身大のアイナ・ジ・エンド。「でも、撮影しているときは、闇があふれ出している時期じゃなくて、頑張りたいと考えていたポジティブなときだったんです。それで、当時の自分より4、5歳ぐらい上を演じる感じで、もしかしたら、病んでいるかもしれないアイナ・ジ・エンドというイメージでした。田辺監督は芝居については特に何も言われなくて、むしろ信じてくれていたんだと思います。自由にやらせてもらいました」。

 自身も、行き詰まった時期はあったか。「ずっと同じことをやっていると、行き詰まったり、面白み、生きがいを感じなくなったりする時期はあります。映画は、家の中でただ縮こまっているだけでは何も変わらない、一歩踏み出すことで、何か予期せぬ展開が待っている、という話ですが、私自身にも、そんな行き詰まりの経験はありました」。

上京1年目の絶望感を明かしたアイナ・ジ・エンド【写真:荒川祐史】
上京1年目の絶望感を明かしたアイナ・ジ・エンド【写真:荒川祐史】

「自分って、今も昔も変わらないのかもしれない、と思う」

 それは、アイナが大阪から上京した1年目のことだった。「お金がなかったっていうのもあるし、出会う人、出会う人がだましてくると思っていた時期もあったりしました。歌とダンスがやりたかったのに、実際はバイトしかしていない。ライブをしたくても、チケットノルマっていうのが高くて、結局、赤字になってしまう。明日、食べることもできない。それが絶望でした。親に会わす顔がないなぁって。人前に立つ練習だと思って、バックダンサーのオーディションを受けるんですけども、なんで自分は人の後ろで踊っているんだろう、この人みたいに前に出て歌いたいみたいな気持ちが募っていくばかりだったんです」。

 当時は東京・中野に住んでいた。「朝起きても、バイトにも行きたくない。ずっとベッドにいて、天井だけを見ていた。すると、外から、夕方のチャイムが聞こえてきて、今、5時なんだ、と初めて気づく。今は違う街に住んでいるんですけど、たまに急な休みが入ってくると、家でボーとしていると、5時に違うメロディーでチャイムが聞こえてくるんです。すると、自分って、今も昔も変わらないのかもしれない、と思うんです。自分は誰かに求められて、歌を歌って、喜んでくれる。それが幸せなだけで、根本は何者でもない。一人で何でもできるタイプじゃない。誰かがいるから頑張れるんだ、と」。

 15年からBiSHに加入してからは事務所にも所属し、清掃員(ファンの呼称)、メンバーもいる。だから、BiSHが居場所になっているのだ。

□アイナ・ジ・エンド(あいな・じ・えんど)“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。2021年2月に本人作詞作曲による全12曲を収録した初のソロアルバム「THE END」をリリース。ソロ活動を本格化し、初のソロツアーは全公演即日完売。22年3月には、大阪城ホールで単独公演「AiNA THE END “帰巣本能”」を開催。

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