男女一緒のプール授業が議論 専門家は「コロナ禍で泳げない子が増えている」と指摘

梅雨明けを前に、全国各地の学校で水泳授業再開の準備が進んでいる。今年はコロナ禍を経て3年ぶりの再開という地域も多いが、一部の生徒から男女一緒のプールに入ることに疑問の声が上がるなど、議論を呼んでいる。学校の水泳の授業、そして男女共修で受けることにはどういった意義があるのか。学校水泳や水泳教育について研究している鳴門教育大学学校教育研究科の松井敦典教授に聞いた。

男女一緒のプール授業に議論が起こっている(写真はイメージ)【写真:写真AC】
男女一緒のプール授業に議論が起こっている(写真はイメージ)【写真:写真AC】

一部の生徒から男女一緒のプールに入ることに疑問の声が上がっている

 梅雨明けを前に、全国各地の学校で水泳授業再開の準備が進んでいる。今年はコロナ禍を経て3年ぶりの再開という地域も多いが、一部の生徒から男女一緒のプールに入ることに疑問の声が上がるなど、議論を呼んでいる。学校の水泳の授業、そして男女共修で受けることにはどういった意義があるのか。学校水泳や水泳教育について研究している鳴門教育大学学校教育研究科の松井敦典教授に聞いた。

 河北新報の報道によると、3年ぶりに水泳を再開する仙台二高では、複数の生徒から男女が一緒に同じプールに入ることへの違和感を訴える声が上がったという。また、熊本日日新聞にも中学生から男女一緒にプールに入ることに抵抗があるとの投書が寄せられている。LGBTQに配慮し男女のデザインを同一にした“ジェンダーレス水着”開発のニュースも話題となるなど、学校における水泳の授業には大きな関心が寄せられている。

 松井教授によると、義務教育で学校にプールがある国は世界的にはほとんどないという。周囲を海に囲まれた島国で河川も多く水難事故の危険が身近な日本では、昭和40年代以降、学校でのプール建設が急速に進んだ。それから40~50年が経ち、多くは耐用年数から改修の時期を迎えているが、自治体の予算不足のため、学校のプールを廃止して公共のプールに授業を移行したり、指導を民間に委託する動きも広がっている。

「コロナ禍での授業中止もあって、泳げない子は増えていると思います。20年ほど前までは運動会のように学校ごとに水泳大会があり、そこで恥をかきたくないからとスイミングスクールに通う子も多かったですが、今は泳げることよりも最近は風邪を引くことや日焼けを気にする生徒や保護者も多く、泳ぎを覚える動機も減ってきています。本来は学習指導要領通りに授業すればほとんどの子が25メートルは泳げるようになるはずですが、テストや落第がないために泳げないまま放置されているのが実態です。ヨーロッパでは試験制度があり、泳げない子は海水浴場で目印の腕輪をつけ、それによって周囲が目をかけるという仕組みがあります」

 今回議論となった男子女子が同じ授業を行う「男女共修」については、2017年からの指導要領で中学では「推進」、高校では「原則」とされている。

「調査では半数くらいの中学校が男女共修でした。ちなみに大学の水泳は男女一緒が一般的で、別々で習ってきた学生からは疑問の声が上がることもありますが、そもそも水着は異性に見られてはいけないものではありません。思春期に水着姿を見られたくないという気持ちは男女ともにありますが、適切な距離感で触れ合うことが異性に対する尊重の気持ちを育んだり、過度に人目を気にしない健全な心の育成にもつながると思います。一方で、性的マイノリティーの方への配慮は必要。使う面を分けるなどで男女一緒に授業しつつ、ラッシュガードやロングスパッツなど、肌の露出の少ない男女兼用水着の普及は歓迎すべきではないでしょうか」

 性の多様性という観点でも近年話題に上るプール授業の在り方。いざというときに命を守るという意味でも、慎重な議論が望まれる。

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