日本で1台のポルシェパトカー、オーナーは元警察官 執念のレストアと奇跡の復活劇
日本でたった1台のポルシェ社製のパトカーに乗っているオーナーがいる。元警察官で車・バイク大好きの倉林高宏さん(63)だ。全国で4台あったうちの現存1台で、過去に神奈川県警が実際に使用していた「ポルシェ912 クーペ」は激レアの1台だ。情熱の入手、執念のレストア、そして路上復帰…。ロマンの詰まったとびきりのマイカー物語とは。
1968年から神奈川県警で約5年間実働 当時は市場価格「375万円」、最高時速「200キロ」
日本でたった1台のポルシェ社製のパトカーに乗っているオーナーがいる。元警察官で車・バイク大好きの倉林高宏さん(63)だ。全国で4台あったうちの現存1台で、過去に神奈川県警が実際に使用していた「ポルシェ912 クーペ」は激レアの1台だ。情熱の入手、執念のレストア、そして路上復帰…。ロマンの詰まったとびきりのマイカー物語とは。(取材・文=吉原知也)
倉林さんによると、1968年式で、同年から神奈川県警に導入。当時の新聞記事には市場価格が「(無線機まで含めると)375万円」、排気量1600CCで、最高時速は「200キロ」とある。高速道路の取り締まりと警戒を中心に活躍し、73年にエンジンが故障。実働は5年ほどで、そのあとは警察学校のロビーに展示されていた。約26年間の展示のあと、廃棄処分されることに。民間の解体業者に出されたところで、「こんな貴重な車なんだから、スクラップにされるのは何としても避けたい」。神奈川県警の現職当時からポルシェパトカーを知っていた倉林さんが動いた。約20年前のことだ。
千葉県の解体業者に何度も足を運び、譲ってもらえるよう説得を試みた。「最初は『社長はいないよ』と門前払いで。約半年間で20回ぐらい通ったかな。『とにかく貴重な車なので処分しちゃダメです』と訴え続けたんです。『こんな鉄くずはもう生き返ることはない』とまで言われたのですが、最終的には『絶対に悪用しない』ということを約束して、譲ってもらうことができました」と振り返る。
貴重と言ってもどれほどのものか。ポルシェ912のパトカーは京都、愛知、神奈川、静岡の各府県警に1台ずつ計4台が導入され、残念なことに京都、愛知、静岡の3台は廃棄処分されてしまったという。この1台しかないのだ。
倉林さんは車・バイクの修理が趣味。入手当時は経年劣化でボロボロだったが、「ぜひ乗れるように」と、ここから車検を通すためのレストアが始まった。まずは正規の書類を整えて登録手続きをするのに約1年がかかった。当初エンジンはかかるにはかかったが、火が回ってしまい、消火器で消した際に完全に使用不能に。
ボディー塗装は当時のまま 「神奈川県警察」の文字も残っている
キーもない状態からコツコツと。ブレーキホースやパイプ類はネットで部品を探して交換。腐っていたガソリンタンクなど細かい部品も取り換えた。エンジンのオーバーホールは自身の退職金を見込んで費用を捻出した。車体の底のサンドブラスト処理は、フォークリフトで持ち上げ、隈なく行った。「夢中になったら、そのまま突き進んじゃうんだよね」。あれこれ部品を探し、試行錯誤で工具を使って直し、きれいにきれいに磨き上げる。修理自体を存分に楽しんだという。
ところが、車検は「行っては落とされるで、5、6回やり直しました。最初は青レンズを付けて青色防犯パトロールで活用しようと思ったのですが、車の登録の都合上、断念しました。修理・整備を重ねてようやくでした」。十数年をかけ、2020年6月に念願の車検証を手に入れることができた。希望の「110」番のナンバープレートが交付で、「涙が出そうになったよ。検査官の方に『苦労しましたね。事故のないようにずっと安全に乗ることができるよう封印したから』と言っていただいて、感慨深かったです」。帰りに運転してみると、とにかく目立つポルシェパトカーは、あっという間にSNSに写真がアップされまくったという。
ボディー塗装は当時のまま。「神奈川県警察」の文字も残っている。実際に走る際は、文字の一部を隠し、今も点灯する赤色灯はカバーで覆えば走行可能だ。大事に大事に乗っていきたいという希少マイカー。「湘南物置クラブ」と名付けたガレージに置いており、カーイベントに随時出展。「でも自走で運転していくもんだから、それでよく仲間に怒られるんですよ。『大事な車なんだから事故で壊れたらどうするんだ』って」と笑う。
倉林さんは「なるべく多くの人に、見てもらいたいし、触ってもらいたいし、乗ってももらいたい」と、オープンマインドだ。さて、どれぐらい費用がかかったのか。諸経費で100万円、レストアは計400万円。「500万円ぐらいなら、ポルシェの中古を買うより安い。家族にもよく言ってるんですよ」。貴重な1台はきょうもどこかを走っているかもしれない。