注目俳優・毎熊克哉インタビュー 3日で撮った“自主映画”が世界を席巻! 驚きの舞台裏

映画「ケンとカズ」や「私の奴隷になりなさい」シリーズに主演する毎熊克哉が、武田梨奈とW主演したのが「いざなぎ暮れた。」(笠木望監督)だ。当初は島根県松江市美保関をPRする15分の“ご当地映画”のはずだったが、新宿のチャラい若者が島根の親戚相手にオレオレ詐欺をする84分のブラックユーモアたっぷりのロードムービーに!撮影はわずか3日強。それが思わぬ疾走感を生み、モナコ国際映画祭を始め、32の映画祭で16冠の快挙を成し遂げた。毎熊が、驚きの撮影現場の裏側を明かしてくれた。

映画「いざなぎ暮れた。」で主演を務めた毎熊克哉【写真:山口比佐夫】
映画「いざなぎ暮れた。」で主演を務めた毎熊克哉【写真:山口比佐夫】

映画「いざなぎ暮れた。」32の映画祭で16冠の快挙! 島根・美保関が舞台のロードムービーが完成

 映画「ケンとカズ」や「私の奴隷になりなさい」シリーズに主演する毎熊克哉が、武田梨奈とW主演したのが「いざなぎ暮れた。」(笠木望監督)だ。当初は島根県松江市美保関をPRする15分の“ご当地映画”のはずだったが、新宿のチャラい若者が島根の親戚相手にオレオレ詐欺をする84分のブラックユーモアたっぷりのロードムービーに!撮影はわずか3日強。それが思わぬ疾走感を生み、モナコ国際映画祭を始め、32の映画祭で16冠の快挙を成し遂げた。毎熊が、驚きの撮影現場の裏側を明かしてくれた。

――84分の長編をたった3日間で撮ったと聞きましたが、こんな経験は?

「ないですね。『短編を撮ろうよ』と始まった自主映画が結局60分になったというのもあったんですけど、こんなことは……」

――当初は15分の短編映画だと伺いましたが、どういう成り立ちの作品だったのですか?

「沖縄映画祭の地元発信の企画として、台本をいただきました。短編にしては多い量だなとは思ったんですよ。でも、もしテンポを早くやっていくなら、15分とはいわずとも30分ぐらいにはなるかなとは思っていました」

――撮影されたのは?

「2019年2月。ちょうど、(NHK朝の連続テレビ小説)『まんぷく』の撮影の後半でした。夜、大阪から島根に向かって、深夜1時ぐらいに到着。その4時間後の5時にはもう着替えて、撮影を開始して、その夜は深夜1時まで。残りの2日間は日の出から日没まで、という感じでした。ナイトシーンはなかったので、夜はみんなでご飯を食べることもできたんです」

――15分では終わらないと思ったのはいつ頃?

「わりと最初の方ですね(笑)。いざ現場に入ると、『時間がない』と言っているのに、監督はめっちゃこだわる。全部1テイクで決めていかないと、もう撮りこぼすというような状態だったんですけども、それでも情緒面にこだわる。でも、悩んでいる暇はないので、一気に駆け抜けた。でも、よく考えたら短編の量じゃないな、と(笑)」

――では、騙されたということ?(笑)

「騙された、ということですかね(笑)。でも、監督はすごく楽しそうに撮っているので、一緒になって楽しく撮ろうかという気持ちになりましたけれども」

自身の演技観について語る毎熊克哉【写真:山口比佐夫】
自身の演技観について語る毎熊克哉【写真:山口比佐夫】

「現場が貧困であればあるほど、燃えるところがある」

――新宿で店を経営する若者が、金髪のキャバ嬢役の彼女を神事真っ最中の島根・美保関まで連れ回して、親戚のおばあちゃんにオレオレ詐欺を働こうとするストーリー。この脚本にはどんな感想を?

「美保関には行ったことがなかったですし、調べてもどんなところか分からない。僕は広島・福山出身なので、近場で言えば、尾道みたいな感じのところかと想像していました。そんな街に、こんな設定の2人がやってきてというのは滑稽で面白いな、と。台本は笑い心があって、すごい面白いなぁと共感できました」

――武田さんとの共演はいかがでしたか?

「2回目ですけども、1回目は武田さんが刑事役、僕は取り調べをされる側でした。その時はイメージ通り。真面目でチャラチャラしてない。今回は金髪姿だったので、まったくイメージのない武田さんだったんで、すごく新鮮でした」

――2人で冬の海に入るシーンもありましたね。

「寒いですけども、最初から3日目の夕方に撮ることは決まっていたので、僕も武田さんも覚悟をしていました。地味に寒いのは、外でのシーン。日本海側で風も強いし、映画には映っていませんが、雪が降ったこともありました」

――スタッフ編成は?

「5人くらい。完全に自主映画でしたね。でも、自主映画の経験はいっぱいあったので、むしろ現場が貧困であればあるほど、燃えるところがあります。そんな貧困な現場なんですが、町の方が全面協力していただいて、祭りの場面を再現してくださったり、全部フォローしてくださる方がいらっしゃった。ありがたかったですね」

――特に苦労したのは?

「全部、大変でした(笑)。でも、監督が大変にする理由なんですよ。これを早く撮るという意識でやっていれば、もうちょっと大変じゃなかった。監督のこだわりが時間をかけさせる。でも、それは嫌にならない。むしろ、やりたいなと思ってしまう。適当に早く撮っていたら、みんなの心も動かないと思うんですね。大変だったけど、楽しかった」

――完成した作品が84分になったと知った時は?

「ああ、そうですか、という感じですかね(笑)。僕も短編を撮るつもりで撮ったやつが60分になったことがあるけれども、60分は微妙な長さ。84分なら、堂々と長編と言えるし、うれしかったです」

「実在した人物をやってみたい」と意欲を示す毎熊克哉【写真:山口比佐夫】
「実在した人物をやってみたい」と意欲を示す毎熊克哉【写真:山口比佐夫】

世界で高評価 自身もモナコ国際映画祭ベストアクター賞受賞に「正直言うと、笑っちゃう感じです(笑)」

――主演映画がフィルモグラフィーに加わったということですからね。主演と脇。演じる上で違いはありますか?

「変わらないですけども、3シーンしかない役だったら、脚本上のミッションとキャラクターの人物像を瞬間に感じなきゃいけないと思いますが、主人公は映画の大半に出てくるので、構成が大事になってくると思うんです。映画の構成と主人公の構成が多少、息を合わせていかないといけないので、監督に相談する率は高くなるということはあります。作品への責任はあまり考えないようにしています」

――32の映画祭に出品され、16の受賞。毎熊さん自身もモナコ国際映画祭でベストアクター賞を受賞。この結果はどのように受け止めていますか?

「正直言うと、笑っちゃう感じです(笑)。なんか、ものすごい映画かのようで……。あまりメジャーな映画祭には出ていないんですけども、それも、この映画らしいと思えるんです。島根の片隅で撮った映画が、ちっちゃい国にも届いていったんだな、と。そこにも、『映画を撮っただけじゃ終わせたくない』という監督の愛を感じます」

――監督は熱い方ですね。

「全然違う作品でやってみたい気がします。この映画もいろいろ発展しましたしね」

――次回作では、最初から「長編撮るよ」と言ってほしいですよね(笑)。

「そうですね(笑)。この映画は、3日間で撮った疾走感は出ている。時間がない感じがひしひしと伝わってくる。それが、作風に合っているから別にいいと思うんです。でも、あと10日あったら、もうちょっとクオリティーが高かったかもと思うんです。どっちがいいかは正直わからないです。そういう運命で撮った映画なんで。でも、『またギャラをあげるから、クオリティーを上げるために撮り直してよ』と言われても同じことはできないです(笑)」

――今後、どんな役をやっていきたいですか?

「何でも……ですが、実在した人物をやってみたい。今までは架空の人物をなんとなく考えて自由自在にやってきましたが、実在する人物となると、アプローチもだいぶ変わってくるだろうなと思います」

「いざなぎ暮れた。」は3月20日から東京・テアトル新宿ほかで公開される。

□毎熊克哉(まいぐま・かつや)1987年生まれ、広島県福山市出身。小路紘史監督作「ケンとカズ」に主演し、第71回毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017 新人男優賞、第31回高崎映画祭 最優秀新進男優賞を受賞。その後、吉永小百合主演映画「北の桜守」や「万引き家族」などに出演。TBS系ドラマ「恋はつづくよどこまでも」の来生先生役でも話題を集めた。

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