「佐久間宣行のずるい仕事術 ―僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた」（ダイヤモンド社）が発売1か月で10万部を突破したプロデューサー佐久間宣行氏（46）。テレビ東京では「ゴッドタン」などの人気番組を生み出したが、昨年3月に円満退社し、現在はフリーの立場で、さまざまコンテンツで大ヒットを飛ばしている。今のテレビやYou Tubeをどう見ているのか。（取材・文＝平辻哲也）

　テレ東退社後、新たに開設したYouTubeチャンネル「佐久間宣行の NOBROCK TV」が人気を集めている佐久間氏。「会社を辞めてから受けた仕事は全部、怖かったですね。YouTubeって、めちゃくちゃちゃんと数字が出るじゃないですか。1、2万再生ばかりだったら、すごいずれているやつと思われる」と振り返る。

　YouTubeではテレビでは実現が難しそうな実験的なコンテンツを企画。「口喧嘩最強のギャルを探す」企画では、19歳のギャル、みりちゃむを発掘。お笑い芸人を相手に罵倒したり、言葉で対峙する企画は再生回数200万回を超える人気コンテンツになった。

「発掘は運ですが、『ゴッドタン』などいろんな場面で他とかぶってない人を探してきたので、うちのチームは得意なんです。みりちゃむはお父さんがものすごく怖い、厳しい人なんだそうです。コテンパンに怒られるらしいです。だから、体育会系のところもあって、素は礼儀正しい。だから口喧嘩企画をやってもイヤミがない」

　YouTubeは未知の世界。「知らないことばかりなのが面白い。口喧嘩の企画くらいバズると、10代や20代の結構な数が知ってくれる。こういう肌感覚はやってみないと分からない。僕は効率が良い戦い方をしているかというと、そうではない。効率の良い戦い方は、“人気者の裏側を見せます”みたいなものだと思いますが、毎回、企画の中身で勝負しているので」。

　最近では「テレビがつまらなくなった」という声も聞かれるが、どのように見ているのか。

「視聴者と広告主、両方にとって不便になっているので、広告も人材もネットに流れてしまっています。でも、それは仕方ないこと。不便さというのは世帯視聴率しか測る指標がなかったことです。制作側はテレビの前にいる人に向けてしか商品を作らないから。そうじゃない人は別のメディアに流れたり、タイムシフトして見るようになっていき、広告主は広告効果に疑問を持つようになってしまった」

　ただ、テレビの力には悲観していない。「この不便さを解消すれば、人材もすごくいますし、制作力も相変わらずあります。今は指標がいくつか分かれていて、混乱期だと思うんですけど、個人視聴率、TVerなどの見逃し配信があったり、逆に面白い時代になっています。今のクリエーターたちは知見も貯められる。制作側も視聴者側も目利きがすごく大事になっている。どのメディアも同じですが、ちゃんと面白いもの、伸びるものを見極め、どれだけ人材を育てられるか、だと思います」。

　今後はどんなビジョンを持っているのか。「お声をかけていただいたところで、面白いことができそうだったらやってみる。やっていくと、自分の中でもやりたいことが出てくるものなんです。一緒に仕事をしたい人はたくさんいます。若い世代の面白い人をフックアップしたいし、尊敬しているアーティストの星野源さんともやってみたい」とラブコールを送る。脱サラしても、古巣と仕事をともにし、新たなジャンルにもチャレンジする敏腕プロデューサーはどんな笑いやエンタメを見せてくれるか。

□佐久間宣行（さくま・のぶゆき）1975年11月23日、福島県いわき市生まれ。テレビプロデューサー、演出家、作家、ラジオパーソナリティー。「ゴッドタン」「あちこちオードリー」「ピラメキーノ」「ウレロ☆シリーズ」「SICKS~みんながみんな、何かの病気~」「キングちゃん」などを手がけ、YouTubeチャンネル「NobrockTV」ラジオ「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」など多方面で担当。2021年にテレビ東京を退社し、現在はフリー。3月にはNetflixにてオリジナルバラエティー「トークサバイバー」を配信しランキング1位を達成。4月には初のビジネス書『佐久間宣行のずるい仕事術』を出版。