低予算の“大人向けラブストーリー”ヒットの理由 企画から約10年かけて実現した映画
低予算の作品「いろいろ困ったことがあったら、撮影所に逃げ込めばいい」
劇中では、小林と松重豊演じる男女の恋愛描写もあって、ほほ笑ましくもなる。「お二人とも、これまで恋愛映画の主役になったことはないらしくて。そういう意味ではラッキーだったな、と思います」。
照れもあってか、「女性の心は分からない」と語る監督だが、恋愛描写の演出はどうやったのか。「『はい、やるよ』と声をかけて、後は役者の力ですね(笑)。お二人とも、佇まいがいい。それには随分助けられました。それだけで、好きとか、嫌いとか、言わなくてもいい、空気感が作れた。小林さんはどことなくモノトーンな感じがあっていいんですよね」。
撮影は21年7月、ほぼオールロケ。「コロナの間を縫って、オリンピック開会式の日に終わりました。オリンピックに入ると、高速道路が一切使えなくなるかもしれない。なので、その前に終わろう、と。芙美さんの部屋での撮影が本当に暑くて、40度くらいはあったんじゃないかな。地獄みたいな環境で俳優さんはラブシーンできるか、と思いましたね。映画で涼しげ見えるとしたら、スタッフ、キャストの力ですよ」。
近作の中でも、低予算の作品だが、大作での作り方、演出上の違いはあるのか。「身の丈にあったプログラムで、90分くらいで終わらせる作品だとは意識していましたけど、やり方としては変わりない。今回は東映撮影所がバックについてくれたのは大きかった。いろいろ困ったことがあったら、撮影所に逃げ込めばいい、という安心感もありましたし、何よりも、撮影所にはお金には換算できない技術がある。今や、映像はケータイでも撮ったり、見られる時代にはなっていますけども、そういうのは映画とは呼びたくない」。
今後については、進行中の企画はあるそうだが、「『次はこれをやります』とは言えないです。『ツユクサ』も公開まで10年かかっていますし、映画は1本の電話で簡単になくなってしまいますから。でも、でもやりたい作品がいくつかあります。ポルノを撮らせてくれ、と言っているんですけど、誰も振り向いてくれない(笑)。時代劇、明治ものに興味を持っています」と、監督はさらなる意欲を見せる。
□平山秀幸(ひらやま・ひでゆき)1950年9月18日、福岡県出身。「マリアの胃袋」(90)で監督デビュー。「ザ・中学教師」(92)で日本映画監督協会新人賞を受賞したのち、「学校の怪談」(95、96、99)シリーズが大ヒット。「愛を乞うひと」(98)で第22回モントリオール世界映画祭国際批評家連盟賞、さらに第22回日本アカデミー賞では最優秀作品賞と最優秀監督賞を獲得。近年も「閉鎖病棟 -それぞれの朝-」(2019)で、第43回日本アカデミー賞の優秀監督賞と優秀脚本賞を受賞。