低予算の“大人向けラブストーリー”ヒットの理由 企画から約10年かけて実現した映画

小林聡美主演の映画「ツユクサ」(公開中)は、若者向きが多い映画では珍しい大人向けのドラマだ。メガホンを取ったのは「愛を乞うひと」「閉鎖病棟 -それぞれの朝-」の平山秀幸監督(71)。脚本家とともに、企画から10年間、温めてきた。監督が実現まで時間がかかったワケを語る。

映画「ツユクサ」について語った平山秀幸監督【写真:ENCOUNT編集部】
映画「ツユクサ」について語った平山秀幸監督【写真:ENCOUNT編集部】

小林聡美主演の「ツユクサ」平山秀幸監督インタビュー

 小林聡美主演の映画「ツユクサ」(公開中)は、若者向きが多い映画では珍しい大人向けのドラマだ。メガホンを取ったのは「愛を乞うひと」「閉鎖病棟 -それぞれの朝-」の平山秀幸監督(71)。脚本家とともに、企画から10年間、温めてきた。監督が実現まで時間がかかったワケを語る。(取材・文=平辻哲也)

「ツユクサ」は今どきの日本映画では珍しい企画かもしれない。ハリウッドでは50代の女優主演作も少なくないが、日本映画の主流は、コミック原作の10~20代向きばかり。40~50代以上のオトナに向けた映画は数少ないからだ。

 舞台は海の見える、とある田舎町。ひとり暮らしをする中年女性の芙美(小林)には悲しい過去があった。ある日、出会ったワケアリ風の男性・篠田吾郎(松重豊)と恋の予感も訪れて……。気の合う職場の友人たちとほっこりとした時間、年の離れた親友の少年との友情、男女の出会いと機微がつづられる。

 脚本は「ふしぎな岬の物語」(2014年、成島出監督)、「at Home アットホーム」(15年、蝶野博監督)、「種まく旅人 夢のつぎ木」(16年、佐々部清監督)の安倍照雄。平山監督にとっては「やじきた道中 てれすこ」(07年)以来の再タッグとなる。

「最初にプロデューサーに脚本家とともに声をかけられたのは全く違う企画だったんですけども、なかなかうまくいかなくて。どうせコンビを組んでいるんだから、『何かないかな』と言ったら、彼がこの話の原型を持ってきたんですね。シナリオハンティングに行ったり、違うプロダクションに持ち込んだり、いろいろ動いたんですけども、あっちに行っては断られ、こっちに行っては断れて……。そんなことが4つ5つありました。目を引くような話ではないですからね。でも10年やってきてよかったと思います」

 大ヒットシリーズの「学校の怪談」、第22回モントリオール世界映画祭国際批評家連盟賞を受賞した「愛を乞うひと」などの実績を誇る監督でも、撮りたい作品を撮るのは難しさもあったようだ。

 これまで、平凡な主婦がDV夫を殺害し、自由を求める桐野夏生原作の「OUT」(02年)、精神病院を舞台にした人間ドラマ「閉鎖病棟 -それぞれの朝-」、阿部寛主演で大規模なネパールロケをした「エヴェレスト 神々の山嶺」(16年)などを幅広いジャンルを手掛けてきたが、本作にひかれた理由は何か?

「ジャングルで撮影したり、ヒマラヤに登ったり、精神病院に入ったりとか、ここのところ激しい作品が続いたので、違うカラーの映画を作ってみたい、というのはあったんです。これを大人のラブストーリーと呼ぶかどうかは分からないけれども、ハタチの恋愛ものは、正直分からない部分もあります。50過ぎて、半分枯れているか、枯れていないのかとか、いろいろ考えると面白い年代だなと思ったんですね」。

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