音楽フェス常連ドラマーがMLB解説者に異例抜てき 評論家も認める逸材が誕生したワケ
MLB通のマニアックな視点が目に留まり解説者に大抜てき
野球好きの趣味が高じてバンド活動と平行してラジオ番組のMCやMLB専門誌のコラムを執筆していた頃、新庄剛志氏(現・北海道日本ハムファイターズ監督)のMLB時代の通訳だった小島克典氏の誘いを受け、2017年、MOBYと筆者・成瀬のミュージシャン2人は、スポーツ配信「DAZN」で異例のMLB解説を務めることとなった。
「いきなりのお誘いを受けたんですが、内心は『待ってました!』でした。初めて解説をした試合で、ご一緒した実況の方が、僕も成瀬さんもにわかファンじゃなくてガチのマニアだってすぐに気付いてくださって(笑)。すごくやりやすい環境を作っていただきました」
そこからとんとん拍子で話が進み、MOBYが尊敬していたAKI猪瀬氏とJ SPORTSでMLBと音楽をつなぐ番組が始まり、MLB中継もひとりしゃべりで実況解説を務めるなど、MLB好きのドラマーはいつしか専門の道へと進んでいった。そんなこれまでの活動で得た情報を一冊にまとめたのが「ベースボール・イズ・ミュージック!」だ。
「やっぱりアメリカって、文化としてスポーツとエンタメは自然とつながっているんです。野球と音楽もそう。例えばサイモン&ガーファンクルのポール・サイモンは少年時代にヤンキースが大好きで、試合前の時間つぶしにたまたま聴いていたラジオで流れてきた曲がきっかけで音楽を始めた、と本人が語っています。また、プリンスが亡くなった時、地元のミネアポリスの球場は彼のイメージカラーの紫一色になり、ツインズの選手全員が紫のリストバンドをつけてプリンスの曲で登場するという追悼試合も行われました。成瀬さんから聞いたオルガンの話も本を書く上で参考になりました」
筆者は解説を担当していた2017年に、ドジャー・スタジアムで名物オルガン奏者にインタビューを行った。この球場ではかつて野茂英雄さんが登場するときに、いつも坂本九さんの『上を向いて歩こう』(アメリカでは『Sukiyaki』)が流れていた。しかしオルガン奏者はその事実を知らなかったようで、その話を伝えたところ、その後の試合で当時ドジャースに在籍していた前田健太投手が登場する際に、野茂さん以来となる「Sukiyaki」を演奏してくれた。そんなふうに野球と音楽は人々の心の中でもつながっている。
「ところが今までそんな野球と音楽を語る本がなかったんです。実はアメリカでもこういう視点の本があまりないんです。きっとそれが当たり前だからなんでしょうね。だから僕みたいに日本で育ったからこそ日本の文化と比較しながら向こうの文化を書くことができるんじゃないのかなって。だったらこれまで実況や解説で使ってきた余談や雑学を集めたカンペ集みたいな本を作るのも面白いよなって、そう思って書いてみたんです。でも本業はドラマーなので、きっと先輩ミュージシャンからは、『MOBY、本を書く時間があったらもっとドラムの練習をしろ!』って、しかられるでしょうね(笑)」
□オカモト”MOBY”タクヤ 1976年、千葉県市川市出身。ロックバンド「SCOOBIE DO」のドラマー兼マネジャー。ABEMA、SPOTV NOWにてMLB中継の解説・実況を担当。他にも酒場に関する執筆やクイズ作家など多方面で活躍。2021年、テレビ東京系ドラマ「生きるとか死ぬとか父親とか」で俳優デビュー。「SABR(アメリカ野球学会)」会員、「野球文化學會」会員。著書は「ベースボール・イズ・ミュージック! 音楽からはじまるメジャーリーグ入門」(左右社)。
□成瀬英樹(なるせ・ひでき)作詞・作曲家。1968年、兵庫県出身。92年、4人組バンド「FOUR TRIPS」結成。97年、TBS系ドラマ「友達の恋人」(瀬戸朝香・桜井幸子主演)の主題歌「WONDER」でデビュー。2006年、AAA「Shalala キボウの歌」で作曲家デビュー。AKB48提供「BINGO!」「ひこうき雲」、前田敦子「君は僕だ」「タイムマシンなんていらない」などがトップ5ヒット。16年、AKB48のシングル「君はメロディー」でオリコン年間チャート2位を記録するミリオンセラーを達成。21年、乃木坂46「全部 夢のまま」を作曲。