挫折を繰り返したレスラーの背中から哀愁が漂うワケ 映像作家を兼任する男の熱い思い

挫折続きの人生で今が華。1人で2役、3役のハードスケジュールもなんのその。全力で駆け抜ける。ガンバレ☆プロレスの5月3日、東京・後楽園ホール大会で、スピリット・オブ・ガンバレ世界無差別級王者・高岩竜一に挑戦する今成夢人が、文字通り夢をつかみ取るため、36年の人生で培ったすべてを投入する。

一人何役もこなしながらベルトを狙う今成夢人【写真:柴田惣一】
一人何役もこなしながらベルトを狙う今成夢人【写真:柴田惣一】

「柴田惣一のプロレスワンダーランド」【連載vol.92】

 挫折続きの人生で今が華。1人で2役、3役のハードスケジュールもなんのその。全力で駆け抜ける。ガンバレ☆プロレスの5月3日、東京・後楽園ホール大会で、スピリット・オブ・ガンバレ世界無差別級王者・高岩竜一に挑戦する今成夢人が、文字通り夢をつかみ取るため、36年の人生で培ったすべてを投入する。

 中学生のとき、アントニオ猪木の引退マッチを生観戦し、プロレスの魅力にとりつかれ、邪道・大仁田厚にも共感。プロレスを幅広く楽しむようになった。そこで「柔道王」小川直也が柔道を始めた東京・八王子高校に進学。スポーツの強豪校とあって「レスリング部も強いはず」と思いきや、部員は今成のみ。のちに2人が加わったものの、三沢光晴ファンの顧問の先生もレスリング経験はなかった。マットもなかった。人生、最初の挫折であり、計算違いだった。

 絵があまり得意ではないのにデザインを学びたくて、2浪の末に美術大学のデザイン学科に入学したものの、作品をほめられることは、まずなかった。2度目の挫折である。

 学生プロレスに救いを求めながら、モンモンと学生生活を送る中、授業の中で紹介された「刑事ジョン・ブック 目撃者」(監督・ピーター・ウィアー、1985年アメリカ)を見て号泣。「これが俺のやりたいことだ」と映画、映像の世界に入り込んだ。4年生のとき、学生プロレスを追いかけたドキュメンタリーを制作し、初めて賞賛を集めた。コンクールに出品し受賞。海外の映画祭にも出品し高い評価を得ることができた。

 勇んでテレビ局に就職したものの、配属されたのは営業部。体育会系の上司や同僚ぞろいで、パワハラ、モラハラは当たり前だった。8か月で退職した。3度目の挫折といえる。

 SNSの世界で知り合った男色ディーノから連絡を受け、DDTに映像班として加わった。ここで「レスラーになりたかった」夢を思い出した。ガンプロ旗揚げ記者会見を撮影していた途中、浪口修に襲われたことで因縁ができ、ガンプロ入りすることになった。27歳だった。

 実は23歳、学生プロ時代に、DDTの傘下団体・ボーイズに参戦しており、2008年デビューとされているが、本格デビューは27歳である。レスラーとして活動しながら、映像班としても頑張った。テレビ埼玉でDDTの番組が放送されていた3年間。毎週、ほぼ1人で30分番組を完成させ、納入していた。ファイトしたあと、事務所に戻り編集作業。大巨人・石川修司とのシングル戦の後は、さすがにきつかった。それでもプロレスラーと映像作家の両立は「これが俺のやりたかったことだ」と苦にはならなかった。

 DDTではフェロモンズとして大活躍。男色“ダンディ”ディーノ、飯野“セクシー”雄貴とともに今成“ファンタスティック”夢人として旋風を呼んでいる。「ファンタスティックは映画の中みたい。ガンプロで本名で闘う自分が実人生」と捉えている。いわば映像班の延長線上にあるのかも知れない。

 会場で流れるあおりVTRも今成の作品である。王者・高岩の生き様を紹介する短編Vも手掛けた。「取材すると、魅力いっぱいの人。テレビで見ていた人。実際は平成だけど、昭和の匂いをまとったプロレスラー」と憧れが募った。その高岩に今成自身がガンプロ勢、ガンプロファンの想いを背負って挑むのだ。高岩は昨秋の「ガンバレ☆クライマックス2021」トーナメントを制し初代王座に君臨。ガンプロの象徴である大家健を退けV1(1・10東京・板橋大会)を飾り、ガンプロの未来・岩崎孝樹もはねのけV2(2・27東京・後楽園ホール大会)、さらに冨永真一郎も撃破してV3(3・26東京・新木場大会)を達成している。

 もはやガンプロの天敵といっていいだろう。今成は2・27後楽園決戦で「東北の英雄」ザ・グレート・サスケを入魂エルボー、ラリアートで沈め大金星を挙げていた。

「どんなレスラーを目指すのか? いろいろと迷った時期もあったけど、心身ともにタフな高岩さんこそ、僕の生きる道かも知れない。人のマネから入るのが僕の流儀。あおりVの取材で高岩さんのことも分かったし」と自信をほのめかす。ハイボール党の高岩に対してビール党だった今成もハイボールを飲んで、高岩に近づいている。

 今こそ人生が輝くとき。挫折続き、酸いも甘いも舐めつくした苦節36年の生きざまのすべてをぶつけろ! そして、その名の通り「今を成し」「夢の人」となれ!

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