プロレスの聖地で無観客試合開催 女子プロレス・スターダムはこの状況下にどう向き合ったか
約3週間ぶりの試合に選手はどう向かい合ったか
2月16日新木場以来、選手たちには3週間ぶりのリングとなった。試合数の多いスターダムにとっては非常に長く感じられたブランクだ。また、明日からは再び試合のない日が待っている。それがどれだけ続くか見えないだけに、選手たちには鬱憤が溜まりに溜まっている状況だった。その思いをぶちまけた選手もいれば、空回りした選手もいるだろう。ファンの反応がリング上で感じられないために調子がくるった選手もいるはずだ。それでも彼女たちは懸命に戦った。
当日のマッチメークは全5試合。オープニングマッチの時間差バトルロイヤルでは元・全日本女子プロレスの中西百重がサプライズ登場。中西はパッション・レッド興行以来、約6年ぶりのリング登場で、「末っ子が生まれてから初めて受け身を取った」と四児の母だ。必殺技のモモ☆ラッチを繰り出したかと思えば、現役時代にもやらなかったというムーンサルトプレス(ムーンサルトアタックは出していたが)まで披露してくれたからたまらない。さらにこのバトルには下田美馬も緊急参戦。大会にベテランの重厚さを加えてみせた。
また、“白いベルトの王者”星輝ありさが首の負傷により欠場、刀羅ナツコとのタイトルマッチが消滅してしまったのは残念なアクシデントだった。星輝が戻ってきてからあらためてベルトを懸けての戦いが組まれることになるだろう。セミファイナルのタッグ王座戦(ゴッデス・オブ・スターダム選手権試合)はユニット離脱に端を発した遺恨清算の意味も込められていたが、クイーンズクエストを裏切ったビー・プレストリー、引き込んだ側のジェイミー・ヘイターが元王者の渡辺桃&林下詩美組を破り初防衛に成功。次期挑戦者には昨年度の新人王・上谷沙弥が名乗りを挙げ、あの”ビッグダディ”の三女である林下詩美とのコンビで初のベルト取りに狙いを定めた。興行再開のめどは立っていないものの、選手たちは先に向けて動き出している。
メインはランバージャックルール採用の岩谷麻優VS鹿島沙希。鹿島が岩谷率いるSTARSを離脱、かつてのタッグパートナーに牙を剥いたのである。執拗に対戦を迫る鹿島に対し、“赤いベルトの王者”岩谷はノンタイトルの特別ルールを提示。それがランバージャックマッチだったのだが、選手たちがルールを把握し切れていなかったのが若干気になった。
ランバージャックとはセコンドがリングを取り囲み、選手が場外へ出るたび強制的にリングに戻す形式だ。STARSVS大江戸隊のユニット闘争が絡んでいるとあってセコンドが攻撃してくることは明らかとしても、逃げ場をなくしリング内で決着をつけさせるのがランバージャックの基本ルール。しかし試合ではセコンドの誰もが落ちた選手を積極的にリングへ戻そうとはしなかった。戻すのはむしろ当事者同士。セコンドが戻したのは数える程度しかなかったのだ。ユニットメンバーの介入が前提なら試合の名称やルールを変えればなんら問題はない。未来に続く後進のため、プロレスの伝統を守っていくためにも、ランバージャックはランバージャック、特殊ルールはそこに則ったルールでやってもらいたいものだ。
とはいえ、最後は岩谷が鹿島を堂々のムーンサルトプレスで破るハッピーエンド。この日のYouTubeにおける最高同時視聴者数は1万1878人、のべ視聴者数が6万7182人だった。「この配信を見て、スターダム面白いなって思ってもらえたらうれしいし、会場に来てみたいなって思ってくれる人が増えたらうれしい」と岩谷は言う。それは全選手の総意でもあるだろう。ピンチをチャンスに変える力が、プロレスにはあるのだ。