「死に際を撮ってもらいたい」アントニオ猪木氏を50年撮り続けるカメラマンが見た素顔

新著を手にする原悦生さん
新著を手にする原悦生さん

“見せ方”を知っている猪木と無言の“駆け引き”

――猪木さんの魅力とは。

「雰囲気的には、サッカーのディエゴ・マラドーナと似ていた気がするんですよ。いろんなお騒がせのスキャンダルもありますし、猪木さんもそういう部分って、意図したスキャンダルじゃないですけど、何かやってやろうってのは常に持っていたと思うんですよね。どこまで写真に写ったかは分からないですけど、何かこれからやってやろうっていうときの目というか、顔というか、そういうのがプロレスラーのときも、プロモーターとしても、政治家になってからも感じられました」

――猪木さんはよくカメラマン心理を見抜いて“絵”を作ってくれます。

「『それは分かるよ』と、よく言っていました。だから逆にそうじゃないのを撮りたかったですよね。猪木さんが思ってるように写らない写真というのもまたいいんですよ。猪木さんは別に写真のことに対してそんなに言わないですけども、猪木さんが思っていたよりも、もっと猪木さんが猪木さんらしいというか、らしくなくてもいいんですけど、そういうのが撮れたときは自分としてはうれしかったです」

――リングでも常に見せ方に気を配っている様子でした。

「それはすごいと思いますね。猪木さんって自分がどう写るかとかいうのをすごい意識していたので、テレビカメラにもどうやって映るか、どうやってガウンを脱いだらかっこいいかとか全部計算していますよね。計算した上でお客さんに見せる。媚びているわけじゃないけど、自分を一番かっこよく見せたいというのは感じられましたね。やっぱり目がずっと生きてたんですよね。いくら戦いが強くても、目が死んじゃったような人もいますから。猪木さんは体が衰えてからも目はずっと生き生きとしていましたから。そこが一番の魅力だったかなぁ。どこがすごいと言ったら目かなと」

――本著の中でお気に入りの写真はどれでしょうか。

「今回の表紙と似ているんですけど、猪木さんの引退試合のポスターに使ったシルエットの写真があるんですけども、それは気に入ってます。力が入っているアントニオ猪木とか、何かに耐えているアントニオ猪木よりも、シルエットだと見た人がいろんな思いを抱いてくれるかなと思って、選んで出しました。引退カウントダウンが始まって、何試合目かにタッグマッチがあって、コーナーポストのところで待っているシーンがありますよね。そのときに試合中ですけど、ちょっと変わった脇から猪木さんに近づいて、下からあおったように撮ったんです。こんな感じで撮ったことは1回もないなと思ってカメラを向けたんですけど、現像が上がってきてネガを見ているときに、あ、面白いかなと思いました」

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