アリス矢沢透、実業家の顔 串焼き店やギターショップ経営も「音楽がこの世で1番好き」
「冬の稲妻」「涙の誓い」「チャンピオン」などヒット曲を連発し、一世を風靡(ふうび)したアリスも今年でデビュー50周年になる。活動休止をして再開する中、ソロ活動に積極的だった谷村新司、堀内孝雄とはちょっと異なるスタンスでいたのがドラムの矢沢透。今、都内で串焼き店とギターショップを開き、経営者の顔も持つ。音楽活動とは別の矢沢の素顔を探った。
都内に串焼き店「AGATHA(アガサ)」とギターショップ「Rimshot」を経営
「冬の稲妻」「涙の誓い」「チャンピオン」などヒット曲を連発し、一世を風靡(ふうび)したアリスも今年でデビュー50周年になる。活動休止をして再開する中、ソロ活動に積極的だった谷村新司、堀内孝雄とはちょっと異なるスタンスでいたのがドラムの矢沢透。今、都内で串焼き店とギターショップを開き、経営者の顔も持つ。音楽活動とは別の矢沢の素顔を探った。(取材・文=中野由喜)
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「六本木に串焼き店『AGATHA(アガサ)』を開店したのは1984年。もう38年になります。神保町にギターショップ『Rimshot』もやっています。昔から料理が大好きで、小学校の時に蒸しパンを作ったのが最初。それからしょうが焼き、チキンソテーとかいろいろレパートリーを増やしていき、いつかお店をと思っていました。基本的に日本そばと焼き鳥とおでん屋はあまりつぶれていないなと思って。それじゃ、焼き鳥をうまくアレンジして、自分の好きなジャズを流してお店の雰囲気も良くして、おいしくて従業員の態度も良くてというコンセプトを考え、これで、はやらないはずがないと思ってやったら案の定、はやったんです」
ギターショップはどういう店なのか。
「僕と友人と一緒にやっているビンテージギターの店です。ゆずの2人とか、いきものがかりもお客さんです。置いているのはマーチンとかギブソンのビンテージですから、好きな人は探して来てくれますね」
実業家の道をなぜ切り開いたのか。
「僕が知っている昔のミュージシャンは収入が不安定。音楽の世界はうたかたの世界だから。音楽がだめになっても生きていけるものがないとまずいんじゃないかなと昔から思っていました。自分が料理やギターが好きだということに加えて、潜在的にそういう危うさを感じていて、できるならやろうと思っていました」
串焼き店はインテリアにもこだわり和洋折衷という。
「お客さんで行ったとき、いい雰囲気だね。いい音楽が流れているね。おいしいね。従業員の態度もいいよね、と言われることを考えています。売り上げ目標を高くとか、店を増やすということは全く思っていません。自分には音楽があり、そっちの比重が大きいので」
コロナ禍では大変な思いをしているはず。
「給付金とかは助かりました。38年もやっているとお客さんがついてくれて、延べ人数がすごいんです。でも、まん延防止法だと『もうラストオーダーなの?』という感じで、中途半端が一番苦しいです」
今、73歳。若く見え、60代と言われても信じてしまいそう。健康維持のために何かやっていることはあるのだろうか。
「ジムに通っています。ストイックではなくやっています(笑)、自分なりに。食べ物は添加物に気を付けて、あとは物事を愉快に考える。人とは、とりあえず楽しく話して、合わない人とは、表立っては避けないようにしながら何となく話さないようにする(笑)。食べ物でも人でも何でもストレスを感じない、自分にいい物を吸収するようにしています。世の中にはいろんな人がいますが、話の合う人なら疲れないじゃないですか。あと、一応、乾燥しないようにお肌はケアしています(笑)」
夢中になっていることやこれからの目標は。
「男子一生の仕事を見つけられた人は幸せ。僕は2つも見つけちゃったんです。まだ、夢を持てというの? ということになりますよね。今はお店のレシピも自分で考えているんです。ふとレシピが思い浮かんだとき、実際に作って食べて、これはおいしい、うまくできたとなったときは楽しいですね。壮大な夢は、今はないです。音楽がこの世で一番好きなもの。それをしのぐ物はないです」
もう1つ気になっていることを聞いてみた。愛称のキンちゃんの由来だ。
「17歳の頃、女の子と当時、朝までやっているジャズ喫茶に行ったんです。お店で寝ちゃいけないんです。眠気覚ましに僕が面白い顔をしてあげるからと言って、いろんな顔をしてあげたの。その1つが『それ柳家金語楼そっくり』と言われて、そこからです」
10年後、20年後に、どんな状態でいたいかと聞くと「自分で何でもできる状態でいたい」と話した。今は渋谷クロスFM「オーナーズ11プレゼンツ『アリス矢沢透の飲食応援団!』」(第1、第3、第5木曜、午後7時)のメインMCとしても活躍する。「ラジオは素のままで出られて自分の考えを素のままで言えるから好きです。普段着の僕の話を皆さんも普段着で聴いてくれたらうれしい」と語った。
□矢沢透(やざわ・とおる)1949年2月6日、神奈川県生まれ。1966年に「中野彰とそのグループ」のバンドボーイとしてドラマーデビュー。その後、ジャズ喫茶でアルバイト、バックバンドを務めるなどの活動後、71年にソウルバンド「ブラウン・ライス」のゲスト・ドラマーとして海外ツアーに参加。ツアー中に出会った谷村新司と意気投合し、72年にアリスを結成。81年の活動休止後にはBLENDというバンドを結成したが間もなく解散。その後、都内に串焼き店やギターショップを開店するなど実業家としての活動も開始。好きな食べ物はチャーシューと鍋物。