N高が見出すeスポーツの教育的価値 ゲーム通じた交流が「切磋琢磨や学びにつながる」

eスポーツを通じて学べる、インターネット時代に活躍する力

 さらに吉村氏は、教育的観点からのeスポーツについて、次のようにも語り、熱を込めた。

「eスポーツから学べることの例として、適切な目標設定をして正しく根性を使う、自身の不安、悲しみ、怒り、悔しさとちゃんと向き合う、チームワークのための信頼が何なのかを知る、他人をコーチして育てることの大切さ、応援し、応援されることの大切さを知る……などがあります。あとは自分の得手不得手を知って、自分の戦いを見つけることも有用ですね。

 そして、インターネット時代に活躍する力も付きます。例えばチャットコミュニケーションで信頼を築く、ボイスチャットでのスピーディーな意思疎通、インターネット上における最新情報の分析・収集と資料作り……。インターネットを通じてチームワークを構築する仕事では、そうしたことができないといけません。従来のスポーツ選手にとっては相当マニアックな部類の仕事ですが、eスポーツではやらないと勝てない。多くの知的生産労働において、ICT能力(テクノロジーを有効活用するスキル)の基礎体力になるんです」

 奇しくもコロナ禍によるテレワークの普及により、インターネットを通じてのチームワークや、仕事を円滑に進めることの重要性は注目されている。そうした状況になる前からインターネット上でのコミュニケーションを重視してきたN高において、“インターネットを通じて一緒にゲームをする”という体験が日常的に生まれるeスポーツ部は、教育的にも大きな価値のある場と捉えられている。

 eスポーツ部に所属した卒業生の両親からは「本当にN高があってよかったです」と言われることもあるという。中学校や転校前の高校で進路に悩んだり、自分を表現できなくなったりしていても、N高で好きなことに打ち込み、やりたいことが見つかるケースは少なくない。「何かを目指す生徒たちが本気で取り組むという、N高の旗印になっています。eスポーツに打ち込むことによって、いろいろな人の人生が変わったのかなと思っています」。好きなもの=ゲームに本気で取り組むことを全力で肯定してもらえる環境は、現在の日本ではまだまだ得難いものだろう。

 最後に、eスポーツ選手になりたい、ゲームが大好きだという子どもを持つ親に伝えたいことを聞いた。

「親御さんが一緒にゲームをやってあげるといいと思います。例えば子どもがサッカーや野球をやっていたとして、親が一緒にやってあげるのは難しい。体力的に全然勝てませんよね。でも、eスポーツは基本的に手が動けばなんとかなりますし、練習すればどんどん上手くなっていきます。もしよければ、なぜ子どもがそのゲームに打ち込んでいるのか、一緒にやって感じてみるといいと思います。実際、自分も子どもたちと一緒にゲームをプレイするんですが、親子間のコミュニケーションとして非常にいい。リアルスポーツだとキャッチボールくらいがせいぜいですよね。でも、eスポーツだったらできるんです」

“たかがゲーム”の思いを一度捨て、親子間のコミュニケーション、そして子どもの成長にもつながるeスポーツの側面に、注目してみてはいかがだろうか。

※S高はN高の生徒数増加に伴い、2021年度に開校した“第二のN高”。部活動や授業もN高と共同で実施する

□吉村総一郎(よしむら・そういちろう)学校法人角川ドワンゴ学園副本部長/S高等学校校長。東京工業大学大学院修了。エンジニアとしてドワンゴ入社、ニコニコ生放送の各種ミドルウエア開発に携わる。その後、角川ドワンゴ学園にてIT戦略部長、講師としてプログラミング教育をけん引。

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