N高が見出すeスポーツの教育的価値 ゲーム通じた交流が「切磋琢磨や学びにつながる」

2016年4月に開校した“ネットの高校”N高等学校(N高)は、eスポーツ部が目覚ましい活躍を見せている。ただ、学校としてただ結果を求めて選手(生徒)を育成しているのではなく、ゲームとeスポーツに教育的価値を見出し、推進してきた。元N高副校長で、現在はS高等学校(S高※)校長を務める吉村総一郎氏に、eスポーツが人間的成長を促す側面や、コミュニケーションツールとしての価値について聞いた。

S高等学校の校長を務める吉村総一郎氏
S高等学校の校長を務める吉村総一郎氏

eスポーツ強豪・N高等学校の「大会での優勝だけを目指さない」スタンス

 2016年4月に開校した“ネットの高校”N高等学校(N高)は、eスポーツ部が目覚ましい活躍を見せている。ただ、学校としてただ結果を求めて選手(生徒)を育成しているのではなく、ゲームとeスポーツに教育的価値を見出し、推進してきた。元N高副校長で、現在はS高等学校(S高※)校長を務める吉村総一郎氏に、eスポーツが人間的成長を促す側面や、コミュニケーションツールとしての価値について聞いた。(取材・文=片村光博)

 N高eスポーツ部は、2021年度の全国高校eスポーツ選手権ではリーグ・オブ・レジェンドが3位、ロケットリーグが優勝と、例年通りとも言える好成績を記録。部活動自体はSlackチャンネルに入ることでカジュアルに参加可能で、人数は約2300人が在籍する大所帯だ。

 強豪校ではありつつも、間口の広さから分かるように、部員は思い思いの形でゲームと向き合っている。学校としても、「強くなって大会で優勝することだけを目指さない」(吉村氏)というスタンスを取る。

「ゲームに対する知識や技術だけじゃなく、他者を尊重したり、フェアプレイに努めて健全な精神を獲得したりといったところも重視したいと考えています。活動を通じて何かに熱中し、目標に向かうことの素晴らしさを体験してもらうことが目的です。例えば試合の中で5回はボールにタッチする、立ち止まらない、先を読んで移動するなど、行動に対して目標を立てたほうが成果も出しやすく、継続もしやすい。そういったことが学べるのもeスポーツのいいところだと思います」

 他のスポーツでも、勝敗にこだわるのか、過程を重視するのかという議論は頻出する。N高では「オンラインゲーム上でのシビアなコミュニケーションが切磋琢磨や学びにつながる」と信じ、eスポーツの教育的な意義を重んじてきた。

「eスポーツはネットのコミュニティーを作る上で、非常に良いツールなんです。就職活動をするうえで野球部の主将を務めると有利になるという話もありますが、それと全く同じです。eスポーツやチームでのコミュニケーション、ネットのプロジェクトでアウトプットを出す経験をすることは、就職にも有利ですし、経験としてプラスになります。

 eスポーツはマルチプレイでチームワークを要求する競技が多い。これは素晴らしいことです。例えばリーグ・オブ・レジェンドは5人チームですし、サブメンバーも含めると6~7人で練習します。チームワークの要求値が高い中で切磋琢磨することで、信頼関係もレベルの高いものになっていきます。コミュニケーションスキルとして学べるものも大きいと思っています」(吉村氏)

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