「ドライブ・マイ・カー」西島秀俊に隠れた名演技 「見ている人は分からない」担当整備士が明かす

「A2ファクトリー」はサーブ専門の自動車修理工場【写真:ENCOUNT編集部】
「A2ファクトリー」はサーブ専門の自動車修理工場【写真:ENCOUNT編集部】

西島秀俊の隠れた名演技 「荷物を出すシーンがあるんですよ」

「アフレコってスポーツタイプの車ですることが多いんですよ。フェラーリの音を入れたり、違う車の音を入れたりするんですけど、もう確実にサーブでした(笑)。サーブのパワーウインドーが開くとき、ロール型のスプリングを使っているんですよ。それがキシキシって閉まる音をちゃんと忠実に出したりとか、エンジンの音にもかなりこだわっていた。だから日本のアカデミー賞では音響の人も賞(最優秀録音賞)を取っていましたよ」

 映画では、車のドアを開け閉めするシーンも複数回ある。

「油をくれておけばよかったなと」と苦笑いする天川さんだが、整備しない“素の音”が逆にプラスに働いたという。「キリキリという音とかギィっていう音に、サーブを乗っている人は『あれはサーブの音だよ、俺と同じドアの音がする』と興奮していましたね」

 劇中では、主演の西島秀俊や妻役の霧島れいか、ドライバー役の三浦透子が車が運転する。車を整備していたからこそ分かるポイントもあった。印象に残っているのは、空港に車を止めるシーンでの西島の演技だ。

「空港の駐車場に停めて、ハッチバック(背面ドア)を上げて荷物を出すシーンがあるんですよ。油圧ダンパーのハッチがへたっていたんですけど、(西島は)何気なくフッって押さえていたんです。うまくフォローしているなと思いました。見ている人は分からないと思いますよ。普通の車よりも重いんですよ。映画で何回も何回も開けたり閉めたりしていたので、ダメになっちゃったんじゃないかなと思います。後で新品に替えました」

 年季の入った車だけに、映画でも常に動きを追っていた。「ホテルに入ってきてカーブで石畳を走っているときに、サスペンションがへたっているなって思いました。ショックアブソーバーと言って、振動を殺すサスペンションがある。それがダメになると車が揺れるんですよ。普通は車は揺れなくてタイヤだけが揺れるんです。北海道でもなっていましたね。そういうくだらないところを見てました(笑)」

 クランクアップ後、車は持ち主のもとに戻ってきた。天川さんはオーナーから聞いた後日談を明かしてくれた。

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