「ドライブ・マイ・カー」西島秀俊に隠れた名演技 「見ている人は分からない」担当整備士が明かす
オーバーヒートは1回だけ 北海道での“雪中撮影”は「北欧の車なので」
「映画スタッフや監督さんだったと思いますが、大勢ゾロゾロやってきました。僕はどの人が監督さんか分からなかったんですよ。皆さん同じ雰囲気の人たちばかりで。監督というと、みんな気を使うと思うんですけど、すごくアットホームなチームだったんです。笑いながら、『絶対こっちだよね、アハハ』って。監督さん、若いじゃないですか。あんな感じのスタッフばっかりで。あと女性スタッフが何人か来て、裏で1時間ぐらい(議論を)やっていました。その結果、『赤でやることに決めます。おめでとうございます』と言って帰って行かれました」
濱口監督の人柄やチームワークのよさが伝わってくる。
車が決まると、整備を任せられた。赤い車の持ち主はもともと「A2ファクトリー」の顧客で、車自体は車検を含め、以前から担当していた。「愛着があって乗られている車なのできれい」と大きな問題点はなかったが、映画の撮影という舞台に送り出すための準備は必要だった。
約1か月かけて、特にエンジンを入念に点検した。「オーバーヒートしないかどうかとか、走っていてエンジンがかからなくなっちゃうということは一番気にしましたね。撮影がストップすれば、役者さんにも迷惑がかかる。そういうことが一切ないようにしました」
ただ、どんなに完璧に仕事をしたつもりでも不安はあった。「古い車で、まして外車。何が起きるか分からない」。撮影に同行しているスタッフに緊急時の対処法を伝え、不測の事態に備えてスタンバイした。
大きなアクシデントは一度だけあった。「1回だけオーバーヒートしました。走行シーンはトラックに載せて撮っていたので、エンジンはかけていたんですけど、風が当たらないんですよ。電動ファンが回るんですけど、1回サブタンクにひびが入っちゃったので交換しました」
北海道での撮影は雪道を走るシーンもあったが、「北欧の車なので北海道の氷点下には強い。スウェーデンの氷点下と比べたらね。マイナス30度とかの世界で走ってる車なので」と心配はしていなかった。
自身も思い入れのある車だけに、映画を初めて見たときは興奮した。まず感動したのが音だった。“本物”だと実感した。