「ドライブ・マイ・カー」西島秀俊に隠れた名演技 「見ている人は分からない」担当整備士が明かす
米アカデミー賞で4部門にノミネートされた濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞を受賞した。日本中が興奮さめやらぬ中、神奈川・川崎市の自動車修理工場「A2ファクトリー」の天川恭男さん(62)も快挙を祝福している。天川さんは劇中に登場するスウェーデン車「サーブ900ターボ」の整備を担当。30年にわたり、サーブ一筋の職人が知られざる映画の秘話を語った。
西島秀俊の演技に称賛 「うまくフォローしているなと思いました」
米アカデミー賞で4部門にノミネートされた濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞を受賞した。日本中が興奮さめやらぬ中、神奈川・川崎市の自動車修理工場「A2ファクトリー」の天川恭男さん(62)も快挙を祝福している。天川さんは劇中に登場するスウェーデン車「サーブ900ターボ」の整備を担当。30年にわたり、サーブ一筋の職人が知られざる映画の秘話を語った。(取材・文=水沼一夫)
オスカー受賞は、天川さんにとっても思いがけないものだった。
「これだけサーブを取り上げてくれて、という映画で賞を取れたのは感動しましたよね。いやー、すごいって。つい先日、赤い車のオーナーさんと僕で、撮影が無事終わったみたいでお疲れ様でした、よかったねとか話をしていたら『アカデミー賞取った』『えーっ!』って。この映画でサーブという車を知った人が多いんじゃないですかね」
映画ではエンドロールに「A2ファクトリー」の名前が記載されている。映画を見た人からは国籍を問わず、天川さんのツイッターに連絡が届いた。
「『YASUOの会社が出てたな』と英語で書いてあったり、『900はお前がいじったのか』とか世界中の人から連絡が来ました。アメリカとかイギリスのほうがサーブ好きは多いし、まして賞を取った。映画イコールサーブ、サーブの整備工場という形で出たので話題になりましたね」
サーブのスペシャリストになって30年がたつ。独立して会社を立ち上げる前から整備士として活動していた。長い付き合いのある顧客からも映画の反響はあった。
「お客さんから『やっぱり映画を見てうれしかったです』というコメントは結構もらえましたね。車を手放したお客さんからも『以前、お宅に整備してもらいました。専門店だったんですね』と言ってくれて。うれしかったですよ」
映画の中では“主役の1人”と言っていいほど、頻繁に登場する“赤い車”。村上春樹の原作では黄色いサーブ900カブリオレで、天川さんのもとに、同タイプの車がないか相談があったことが映画と関わったきっかけだった。
クランクイン前、「A2ファクトリー」の駐車場に赤と黄色、2台のサーブを用意した。原作では車内のカセットプレーヤーが大きな役割を果たす。比較的新しいカブリオレはCDで、1990年式のサーブ900にはカセットが装備されていた。
集まった映画のスタッフが2台を囲み、どちらの車がいいのか、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を始めた。そのときの様子を天川さんはこう振り返る。