やり手ビジネスマンから同人誌印刷の道に 異色経歴社長が語る35歳からの異業種転職

社長就任後は“何も知らないこと”を逆手に取り経営改革に着手

 社長就任後は、自分が何も知らないということを逆手に取り、「初心者にも優しい同人印刷」をスローガンに経営改革に着手。当時は業界内でも「初心者は金にならない」「原稿に不備があって手間ばかりかかる」と毛嫌いする印刷会社が多く、競合相手の社長から「そんなことやってても売り上げ上がらないよ」とアドバイスされたこともあるというが、「競合が参入してこないならそれこそブルーオーシャン」と率先して初心者を受け入れてきた。

「確かに余白がなかったりサイズが違ったり、原稿の不備はほぼ100%あります。うちではそれに加えて、『ここはもう少しこうしたほうが見栄えがよくなりますけど、このままでいいですか?』というレベルで確認する。同人誌ってすごく労力がかかるものだから、作るからには宝物の1冊を作って、リピーターになってもらいたい。初心者を育てることにも力を入れないと、業界全体が縮小していくという危機感もあります」

 荒川と隅田川に挟まれた工場近辺には、捨て猫や野良猫が多く、2010年からは地域の猫を社内で保護する活動も開始。「癒し課」配属の“社猫”として社員が交代で世話をし、SNSでの発信も行っている。

「今は全部で8匹で、うち2匹はテレワーク社猫として我が家に勤務しています(笑)。コロナ禍でコミケを始めイベントが中止となり、売り上げが落ち込むなか、SNSでバズったりメディアに取り上げていただいたりと、うちにとっては本当に招き猫のような存在ですね」

 昨年末には、2年ぶりに東京ビッグサイトでコミケが再開。今夏には記念すべき第100回目の開催も予定している。コロナ禍の同人誌業界は苦境が続くが、同社ではコロナ禍で設備投資を拡充。より顧客の要望に応えるべく、試行錯誤しているという。

「業界全体で短納期、低価格の業態は頭打ちになっている。そこには参入せず、付加価値を付けることで戦略的に差別化を図っていきたい。同人誌印刷会社の中では3本の指に入る老舗。最後まで同人誌とともにあろうと思っています」

 異色の経歴を持つ敏腕社長は、持てるものすべてを出して同人誌文化を盛り上げていく。

□小早川真樹(こばやかわ・まさき)1972年4月28日、千葉県鋸南町出身。帝京平成大学卒業後、大手英会話スクールに就職。その後、FCコンサル、無線通信機器を扱うベンチャー企業を経て、2007年にしまや出版に入社。ビジネス用語カードゲーム「社長! 横文字で言うのは止めてください」、町工場男子の写真集「あだち工場男子」、元保護猫を配属させる「癒し課」など、ユニークな取り組みでメディアにも多数出演。

次のページへ (3/3) 【写真】「癒し課」配属の“社猫”の可愛らしい姿
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