「ドライブ・マイ・カー」、暗いニュース続く映画界に光 快挙がもたらす本当の意味
スピルバーグ監督も「家族で見た。素晴らしかった」
コロナ禍では、深田晃司監督らとともに、いち早く「ミニシアター・エイド」を立ち上げ、SNSなどで発信し、3億円を調達することに寄与した。「ドライブ・マイ・カー」もこの活動の最中に動かしたプロジェクトだった。当初予定していた韓国・釜山ロケを変更し、撮影中断の後に広島ロケに切り替えたが、それが結果的に功奏した。苦難を乗り越えて完成した本作は全国のミニシアターを巡回し、その窮地も救ったはずだ。
以前、本作でインタビューした際には、こんなことを話していた。
「この映画ほど、映画館が助けてくれるものはないと思っています。3時間という長さで、役者さんを大きな画面で見つめられますし、彼らを包むような音響を味わえる。映画館で映画を観る体験を積み重ねることで、新たに映画を作る人も出てくるはずです」
映画館を救ったのではなく、映画館に救われたのだ、と謙虚に話す。昨年のカンヌ国際映画祭での脚本賞に続く、オスカーでの快挙は、後進にも大いに刺激を与えたはずだ。「ドライブ・マイ・カー」は既に配信がスタートし、ブルーレイ&DVDも発売されているが、映画館で見る体験にこそ価値がある。今も映画館でも上映中。近く凱旋上映もあって、その機会はさらに広がるかもしれない。
また、候補者たちが集まった前夜の夕食会では、「ウエスト・サイド・ストーリー」スティーブン・スピルバーグ監督からは「家族で見た。素晴らしかった」、「タミー・フェイの瞳」で助演女優賞受賞のジェシカ・チャステインから「美しい映画だった」などの感想ももらった。出演者たちはキャスティング・ディレクターの目にも止まったようだから、ハリウッドからの出演オファーもありそうだ。濱口監督が真っ赤に塗り替えたサーブ900をめぐる冒険は、まだ夢の途中にある。
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第94回アカデミー賞受賞作品・受賞者