在日ウクライナ人が語るゼレンスキー大統領の素顔 「彼は賢い」来日時に通訳を担当
「プロの通訳として失格かもしれません」
「今は通訳をやらない。断っている。私はどうしてもウクライナの味方です。通訳というのは冷静にやらなければならない。今、私は冷静でない。今の私の精神的な状況で冷静な通訳はできないと思う。プロの通訳として失格かもしれません」
依頼は多数届いているものの、受けてはいない。ウクライナ語からロシア語に、その逆や日本語に通訳するとき、プロの仕事を貫けるか自信が揺らいでいる。冷静さを欠くほどの怒りや憎しみの感情がこみ上げている。
「感情が入りすぎて、出来事として強すぎて、夢にも悪夢が出てくる。ネイティブの人はよっぽど(ウクライナ情勢に)無関心な人じゃないと通訳できないと思います。今、(ウクライナ語などの)通訳を探すならば、逆に日本人を雇うべきだ。今、私とかロシア人を雇っても冷静になれるのは、よっぽど無関心な人。それでも仕事をこなす人のプロ意識には頭が下がりますけど、私はできない」と強調した。
ゼレンスキー大統領は戦火のキエフに残って陣頭指揮を執っている。ロシア軍の包囲網をものともしない最高指導者は1日に2、3回テレビに登場し、国民に向け力強いメッセージを放つ。ミグダリスキーさんは「今は表情から疲れているということがもちろん丸見えです。たぶん、ほとんど寝ていないし、言っていることは感情的」と前置きつつも、2年前に東京で抱いた知的な一面を重ねる。
「彼のメッセージは、単純な言葉で国民に簡単に伝わる言葉を使っている。偉そうな言葉は一切ない。それと必要なときにウクライナ語からロシア語に切り替えて、ロシア語で聞いてる人にも伝わるように、ロシア国民にも伝わるように言っているんです。マリウポリで産婦人科・小児科病院が爆撃されたとき、彼は『何を考えているんだ! 私たちはこの病院にナチス党を作ったりしていたか? あの妊婦さんたちが何かしたか? 何考えているんだ。これはどこから見ても罪です。戦争犯罪です。私たちはそれを許さない』と言った。言葉使いは誰が聞いても分かりやすかった。大統領の位置にふさわしい人だと思います」
英国下院や米議会で行った演説でも喝采を浴びたゼレンスキー大統領。ウクライナ国民は鼓舞され、ロシア相手に激しい抵抗を見せている。「彼がキエフにいるということは強い。国民にいい印象を与える。支えになる」と、ミグダリスキーさんはうなずいた。
□ウラディーミル・ミグダリスキー 1972年6月10日、ウクライナ・オデッサ生まれ。オデッサ国立大学卒業後、98年に来日。京都大学大学院卒業。京都情報大学院大学准教授(数学)。同志社大学、関西大学非常勤講師。2019年10月のゼレンスキー大統領来日の際には通訳を務める。少林寺拳法准範士六段、居合2段。