健康社会学者・河合薫さんが提案するコロナ禍の生き方「無駄を作ることと愛をケチるな」

人と環境の関わり方に注目し人の幸福感や生きる力を研究しているという【写真:荒川祐史】
人と環境の関わり方に注目し人の幸福感や生きる力を研究しているという【写真:荒川祐史】

コロナ禍でも生き方は「無駄を作ることと愛をケチるなという、この2つに尽きる」

 自身も生活が脅かされたという。健康社会者としてコロナ禍での生き方を提案してもらった。

「まず大きな考え方として、『会社』や『社会』ではなく『半径3メートル世界』の中で、光を見つけることです。そのためには、無駄を作ることと愛をケチるなという、この2つに尽きると思っています。コロナ禍では人と会うことが制限され、目を見て話すこと、不安そうな人の手を握ること、いいことがあってもハイタッチができない生活になり、face to faceがいかに大事かと気付いたと思います。でも、それが実は『誰かを思いやることだった』と気づいた人は少なかったように思うんです。人はみな愛情を持っています。恋愛だけでなく、誰かのことを思いやったり、心配したり。誰かがいいことがあると、聞いている側もうれしくなりますよね。リモートは便利でも、心の居心地の悪さを感じていると思います。だからこそ、愛をケチらないでほしい。人に優しくする、声をかける、ことをケチらないでほしいんです。ささいな行動でも、半径3メートル世界の人を思いやることで、自分の心が温まる。たとえば、おばあさんに電車で、そっと席を譲ってみる。ピカピカのスニーカーでうれしそうに駆け回ってる子どもがいたら『お! かっこいいね!』と声をかけてみる。子どもが、ニッコリ笑ってくれるだけで、自分の心が温まります。それらは今の世界では無駄なことのように思われますが、無駄がどんどんなくなっているからこそ、心が温まる瞬間をつくることが必要だと考えます。だれもが自分らしく生きたい、幸せになりたいと思っていると思いますが、自分らしさは自分を取り巻く半径3メートル以内の人と関わることで引き出されるもの。幸せは個人に宿るのではなく、半径3メートル世界に存在するのです」

 在宅ワークが増え、仕事以外に家庭でも気遣い、エネルギーが必要なケースもある。

「私が取材したリタイアした方は、料理教室に行ったら生徒は家にいづらいお父さんばかり。でも、やってみると料理が楽しくなり、家で料理したら奥さんにも喜ばれ『おいしい』と言われて自分でも驚くほどうれしかったと話していました。最初の1歩を踏み出してみると、今まで面倒だと思っていたことの先に幸せはあるもの。人は幸せの3つのボールを持っています。仕事と家庭と健康の3つです。この3つのボールを一つも落とすことなく、ジャグリングのように回し続けないと、幸せを感じられないんです。仕事のボールしか上げていなかった人は家庭や健康のボールを上げてみると、自分でも予想もしなかったハッピーな瞬間に出会えると思います。人間には不思議な力があります。幸せになる力、生きる力。いい人に巡り会えて引き出されることもあれば、自分から動いて引き出されることも。人は環境で変わるし、環境を変えることもできます。まずは面倒だと思っていたことをやってみると、今まで見えなかった景色が見えてくるはずです」

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