ダークサイドに目覚めた“スープレックスマスター”が全日本プロレスに嵐を呼び込む
まるで人が違ったかのようだ。我を忘れて怒り狂う芦野祥太郎。日本史の教科書に載っていそうな「明治の元勲」のごとく、常に冷静沈着を思わせる風貌には似合わない罵倒の言葉が次々と口から飛び出していた。
“後輩”本田竜輝の襲撃に激怒「泣き虫がイキがっているんじゃねえ。なめた口をきくな」
まるで人が違ったかのようだ。我を忘れて怒り狂う芦野祥太郎。日本史の教科書に載っていそうな「明治の元勲」のごとく、常に冷静沈着を思わせる風貌には似合わない罵倒の言葉が次々と口から飛び出していた。
ピシッと折り目正しく、礼儀を重んじる芦野はそこにはいなかった。パートナーの“暴走専務”諏訪魔があぜんぼうぜんとするほどのド迫力だった。諏訪魔は「初めてブチ切れた祥太郎を見た。迫力あった。スゴかった」と振り返っている。芦野の新しい一面を目のあたりにして、ますます頼もしく思ったに違いない。
事件が起こったのは、全日本プロレスの2・23東京・後楽園ホール大会だった。土肥熊こと土肥こうじ、羆嵐組の挑戦を退け、諏訪魔と保持する世界タッグ王座V3を達成した芦野。勝利の余韻に浸る間もなく本田竜輝の襲撃を受けたのだ。イスで襲われた芦野は激怒。本田ともみ合いパンチを何発も叩き込んだ。本田に「ザコ」呼ばわりされたのだ。もはや体の芯から湧き上がってくる憤怒の念を押し殺すことはできなかった。
「殺すぞ、オラ。お前が練習生のころ、何回、泣かせた。泣き虫がイキがっているんじゃねえ。なめた口をきくな。覚悟しろ。」と罵詈雑言を浴びせかけた。WRESTLE-1時代の後輩である本田に容赦なかった。
それも分かる。W-1時代から面倒をみてきた本田に1・23後楽園決戦の3冠王座決定トーナメントで敗れてしまった。番狂わせそのもので、先輩の面目は丸つぶれ。その上、悲願の3冠奪取のチャンスをつぶされた芦野は、徹底的にたたきつぶさないと気が済まないはず。
芦野から提案した3・21東京・大田区総合体育館大会での一騎打ちが決まったが「お前に言われっぱなし、やられっぱなしで終わんねえぞ」という宣言通り、本田をとことん痛めつける。
それにしても、暴走専務が驚いた芦野の思わぬ一面。W-1が解散し、全日本に戦場を求めた2020年当時のことが思い出された。W-1チャンピオンシップに2度、君臨した芦野は、W-1の強さの象徴であり、W-1への思いは熱かった。全日本乗り込みも折しもコロナ禍で予定が狂い、出鼻をくじかれてしまった。
それでも今の3冠王者・宮原健斗、前3冠王者で負傷欠場から復帰してくるジェイク・リー、青柳優馬ら、同世代のヘビー級戦士が充実している全日マットに思いをはせていた。
上の世代には、今では「暴走スープレックス」でコンビを組む諏訪魔に、スーパーヘビー級の石川修司らがいる。芦野にとってはこれ以上ない戦場だった。今でも芦野がしぼり出した「W-1はチャンピオンでも、リングを自分たちで作った。インディーだった。でもファイトでは全日本と同格」というセリフを克明に思い出す。
実際、全日本上陸後もスープレックス、アンクルロックなどで、芦野は暴れまわってきた。今年1月、全日本に正式入団も果たし、いよいよ存在感を増している。もちろんW-1育ちのプライドと自負も大切にしている。だからこそ、W-1で同じ釜の飯を食った後輩・本田の無礼な振る舞いが許せなかったのだろう。
普段は家族愛にあふれ、ファンにも神対応。近寄りがたく厳格で重厚な風貌とは想像もできない優しさに満ちている。2週間に一度は散髪し、一糸乱れぬビシッと決めた髪型は木戸修さんを彷彿(ほうふつ)させる。強風の日でも、芦野の髪は最後まで乱れず涼しい顔。いつも冷静。リング上でもクリーンなファイトが目立っていた。それが「2・23本田の乱」で、芦野の秘められた本性が飛び出した。
2・27千葉大会の6人タッグマッチで、本田と激突した芦野。本田のスパインバスター、馬乗りエルボーを食らったが、ラリアートで反撃しジャーマンスープレックスでたたきつけた。火花が散る攻防はいよいよエスカレート。本田は「丸坊主にしてやる」とうそぶいている。
これまで本人も気づいていなかった「悪の本性」に支配された芦野である。しょうたろうの漢字は違うが「悪の正太郎くん」が、どんな制裁を下すのか? 諏訪魔も押えられないかも知れない。
今までクールに押さえていた激情が爆発する「ダークサイド・祥太郎」が誕生した。この危険な男から目が離せない。