浦沢直樹、「漫勉」シリーズは「漫画家の醍醐味」伝える 読者と描き手の“溝”解消を意識
多忙な手塚治虫を理解できなかった部分も今は「分かるんですよ」
――もともと、この「漫勉」は浦沢先生が手塚治虫先生の作業現場を映像でご覧になったことがきっかけだと伺いました。
「僕は5歳くらいから“描く側”に回っているので、目の前で日ごとに漫画が完成されていくのは自分の目で見ているんです。人に見せるときには出来上がったものを見せるけど、自分の中では小さいころから『描いているときの面白さ』を感じていたんですね。描いているときって、漫画描きの醍醐味の一つがあるんじゃないかとずっと思っていて、それが“読者”と“描き手”に深い溝を作っているんじゃないかなとも感じていました。“描き手”はいつもあれを体感しながら描いているのに、“読者”は出来上がったものしか見ていないというジレンマですね。
放送作家の倉本美津留さんと食事をしながらそんな話をしていて。僕らが見ているような画面を、手塚治虫先生のNHKのドキュメンタリー(NHK特集 手塚治虫・創作の秘密/1986)で作られた形で見てもらうことによって、普段読者として見ている人の漫画に対する意識が相当変わるんじゃないかという話をして、『漫勉』のような形になっていきました。
手塚先生のドキュメンタリーは確か僕がデビューするかしないかくらいのときかな。ものすごく忙しくて大量な仕事をこなされると知っていたので、水面や草を描かれているのを見て、『手塚先生、そこはアシスタントに任せようよ』『休んでください』って思ったんですね(笑)。でも、今になって自分で描いていると、描きたい気持ちが分かるんですよ。ただ、描きたい」
――レジェンドの方がまだまだ現役でいらっしゃいます。漫画家に定年はないというお考えでしょうか。
「『漫画家に定年がない』のは、この番組があって、つくづく、しみじみと……。描けるうちはずっと描くというのが、我々の宿命だなと思いますよね。僕は物心がついてからずっと描いていますけど、きっとそれは命の終わるときまで描いているんだろうな。ずっと描き続けて、この一生は終わるんだろうと思います」
●浦沢直樹の漫勉neo Eテレ 午後10時~10時49分
3月2日「渡辺航」 作品「弱虫ペダル」
3月9日「青池保子」 作品「ケルン市警オド」
3月16日「新井英樹」 作品「バンアゲね」(読み切り作品)
□浦沢直樹(うらさわ・なおき)漫画家。「YAWARA!」「MONSTER」「20世紀少年」「あさドラ!」など多くのヒット作を生み出す。手塚治虫文化賞やメディア芸術祭マンガ部門優秀賞、またアイズナー賞など海外でも受賞歴多数。「漫画が生まれる瞬間」の感動を伝えたいと、「漫勉」を構想。