【花田優一コラム】職人にもスポットライト浴びる舞台を 北京五輪で考えたものづくりの未来

靴職人の花田優一の連載【花田優一コラム】。第65代横綱・貴乃花と元フジテレビアナウンサー・河野景子の長男で、靴職人の活動を中心に、画家としての活動、タレント業、歌手活動などマルチに活躍する優一。最新のニュースや世相をどう感じているのか。優一の視点で伝えていく。第3回は、北京五輪から、職人として生きてきた人生を振り返る。

花田優一【写真:荒川祐史】
花田優一【写真:荒川祐史】

第3回は北京五輪から職人として生きてきた人生を振り返る

 靴職人の花田優一の連載【花田優一コラム】。第65代横綱・貴乃花と元フジテレビアナウンサー・河野景子の長男で、靴職人の活動を中心に、画家としての活動、タレント業、歌手活動などマルチに活躍する優一。最新のニュースや世相をどう感じているのか。優一の視点で伝えていく。第3回は、北京五輪から、職人として生きてきた人生を振り返る。

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 幼い頃の食卓にあったテレビは、奥行きもたっぷり、簡易的な机に置けば底が抜けそうなほど重いものだった。画面の下には、番組を選局するボタンが付いていて、カチカチと音を立たせながら、結局は8チャンネルに落ち着いていたのをよく思い出す。

「優一! 少し静かにしていて!」と台所の奥から母に制され、静かに耳を澄ましていると、「はい、行けます! いいとも!」と、電話口に向かって話していた。次の日、落ち着きの8チャンネルの中に、母がいた。母の作ったカレーを食べながら、妙な気分だった。

 帰宅するとテレビをつける習慣というのはなくなってしまったのだが、ここ数日は懐かしさも感じるほど、テレビをつけている。五輪はスポーツ少年の僕にとって、正に祭典なのだ。

 メダル授与の際、国歌が響くと心が震えるのは染み込まれた本能だろうか。平野歩夢選手の滑走に、仕事を中断してかじりつき、アイスホッケーを見た勢いで、NHLのスーパースター、ウェイン・グレツキーのドキュメンタリーまで見てしまった。今日に至っては、朝から中華を頬張りながら、カーリング女子ロコ・ソラーレの勇姿に涙をこらえる始末。刺激的な日々に感謝するばかりである。

 僕も、小学生の頃からプロバスケットボール選手を目指し、アメリカに行った理由も、NBAに行くための糸口を探すためでもあったほど、スポーツ少年であった。

 一方で、生まれ育った環境も、アスリートに囲まれて育ったのはご存知の通りだろう。輝かしい栄光の1ページのために、血へどを吐くほどの鍛錬を積み重ねるアスリートの厳しさをすぐ側に、成長させてもらったのだ。

 結局のところ、スポーツの世界でスーパースターになりたいと本気で願う少年だったが、僕には覚悟が足りないと諦め、人生最初の挫折もスポーツで味わったのだった。

 靴職人という道を選び、ものづくりをして生活をさせてもらえるようになってから、スポーツの祭典を見るたびに考えることがある。

 どれだけの血や涙を積み重ねたのだろうと思いを巡らせる中で、こんな風に結果を明確に出せる機会があることが、羨ましいとも思ってしまう。だからこそ、シビアな現実の中で戦うアスリートは格好良いのだが、スポットライトが当たるような舞台が少ないものづくりの世界では、夢が見にくいのも現実だ。

 賛否両論あるにせよ、漫才の世界でもM-1のようなスポットライトが当たる大会があるからこそ、一夜で人生を変える瞬間が目指す者に夢を与えるのだ。

 靴職人の世界だけに当てはめてみても、五輪から学ぶことはたくさんある。AIが台頭し、時が進むにつれ、流れ作業の職人は誰一人必要なくなるだろう。この先残っていく職人は、オリジナリティーや個性がある者だけだ。今までの職人像とは変わっていくが、もうすでに廃れた職人世界は、時代とともに変化していかなくてはならない。

 アスリートにも負けないほど、鍛錬を積み重ね、日々自分と向き合う職人も、同じようにスポットライトを浴びる舞台が必要なのだ。良い車に乗り、美しいパートナーに出会い、大きな家に住むのが職人でなくては、若者など目指すわけもない。極論、ジャスティン・ビーバーが靴職人なら、世界中に靴職人を目指す若者があふれ返っているはずなのだ。

 ものづくりを生業にしている身として、この世界にスポットライトを当てられるように精進しなくてはならないと、気を引き締められた。寒い2月に歓喜した北京五輪は、純粋な感動の先に、人生を考えさせられる大会であった。

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