公立中中退から北米留学 シングルマザーが14歳の息子に年間400万円をかける理由
ドラマ「ドラゴン桜」や「二月の勝者」では東大や御三家と呼ばれる超難関校への合格を目指す受験生の奮闘がリアルに描かれ視聴者の感動を呼んだ。その一方で公立中学校に通っていた当時14歳の長男を中退させ北米の高校に留学させたシングルマザーがいる。留学にかかる費用は年間400万円に上るというが、それでも海外に送り出した意義は大きかったと話す。若くして海外留学した長男はどのような成長を遂げたのだろうか――。
長男がアメリカで受けた衝撃「日本と全然違う」
ドラマ「ドラゴン桜」や「二月の勝者」では東大や御三家と呼ばれる超難関校への合格を目指す受験生の奮闘がリアルに描かれ視聴者の感動を呼んだ。その一方で公立中学校に通っていた当時14歳の長男を中退させ北米の高校に留学させたシングルマザーがいる。留学にかかる費用は年間400万円に上るというが、それでも海外に送り出した意義は大きかったと話す。若くして海外留学した長男はどのような成長を遂げたのだろうか――。
東京都内に住む40代の佐和田美波さん(仮名)は外資系企業に勤務。職場では日常的に英語を使っており長男はグローバルな会社でハツラツと働く母の姿を見て育った。長男が小学6年のとき、アメリカ・ボストンに1週間の出張があり親子で一緒に渡米。佐和田さんは日中仕事をこなし、長男は現地の民間英語学校に通った。当時、長男は都内の野球チームに所属していたことから、MLBボストン・レッドソックス本拠地球場のフェンウェイ・パーク(Fenway Park)を訪れ親子で試合を観戦。「チケットは1枚2万5000円で席は1塁側の前から3列目。私は野球についてよく分かりませんが、至近距離で試合を見て本当に感動しました。もちろん野球をやっている息子も大興奮でした」。この試合観戦で気付いたのはホットドッグの売り子が男性だったこと。長男は「日本では若い女の子が売り歩いているのにアメリカはそうではない。日本とは全然違う」と衝撃を受けていた、という。
仕事を終えた後にそのまま休暇を取り、高校時代に留学していたニュージャージー州のホストファミリーの家を訪れ、さらにロサンゼルスに住む親戚と合流してサンタモニカビーチやハリウッドスターの豪邸を巡るツアーを体験。「ブラット・ピットとアンジェリーナ・ジョリー、トム・クルーズ、ジャスティン・ビーバーらのすごい自宅を目の当たりにして親子で感激しました。息子にもいい刺激になったと思います」。
これらの英語体験と野球体験が長男を変え、彼の中で英語圏に留学したいという希望が芽生えた。中2の秋には現地の高校の下見ツアーに親子で参加。「息子は中学2年の3学期まで日本の学校に通いましたが、授業については『先生が一方的に話す』『つまらなくて眠くなる』とこぼしていました。修学旅行も卒業式も参加しないまま日本の学校をやめてしまったわけですが、単にアメリカへの憧れだけではなく、日本の義務教育の問題点も背景にあったと思います」
留学を望む長男の気持ちを確かめた後、佐和田さんは仲介業者がもたらす情報を参考に留学候補地を絞り込んでいった。その結果、英語と野球、両方に取り組みたい長男にピッタリの学校が複数浮かび上がった。最終的に判断したのは自然環境に恵まれた公立高校。地域には子どもたちが参加する民間の野球リーグがあり、長男も加入できる。「北米の高校は9月から新学期なので、中3になる前の春に送り出し9月までの半年間は地元の英語学校に通わせました。授業は月曜から金曜までで、教師は毎日4、5時間、生徒にみっちり英語を教えていたようです」。
現地の高校入学後の様子はどうだったのだろうか。「アジア系に対する周囲の反応は『この子、だれ?』という感じだったそうですが、わりとすぐ適応できました。野球チームでも息子は頑張りましたからチームメートに認められ友だちがどんどん増えていった。日本の野球チーム時代は、コーチが子どもたちを怒鳴り散らすだけで指導になっていません。しかし、現地の野球チームのコーチは子どもの人格を尊重して本人のいいところを伸ばそうと適格に指導する。頭ごなしに怒鳴ることは決してありません。今年9月に大学入学を迎えますが、コーチが息子にふさわしい大学を推薦してくれます。大学に入学後は、成績もそれなりにキープしなければ野球チームに在籍することがそもそもできないので、息子にとっては大変厳しい環境となりますが、努力次第で本人が望む学問と野球の両立が果たせそうです」。
気になるのが留学にかかる費用だ。長男は現地の一般家庭の自宅にホームステイしており、そのホストファミリーに支払う家賃が月約10万円。こちらには食事代が含まれており、遠征の際には車での送迎もしてくれる。その他に留学エージェントに月5万円、高校の授業料が年間130万円、試合の遠征費やユニフォーム代が年間20~30万円ほど。「ざっくり年間400万円ぐらいかかっています。正直、大変な出費ですが、人生は1回切りですから息子には息子が望む人生を送ってほしい。私は日本企業に比べて給与が高い外資系企業に勤めているので何とかやれていますが、仮に日本の一般企業に勤めていたとしても教育ローンを組んででも息子を留学させたと思います。息子はこのままアメリカの大学に進学し卒業後は現地の企業に勤める可能性が高いでしょう。離れ離れで寂しくなるときもありますが、後悔はしていません」
日本の受験や教育については「本人が望んでいなければ、子どもが苦しそうでナンセンス。日本のトップクラスの超難関大学を卒業してもそれで世界に通用するのでしょうか」とやや批判的だ。「アメリカの高校では自分の意見や考え方をエッセーにまとめる訓練を受けます。また自分の考えを伝えるプレゼンテーションもうまくできないといけません。息子は『課題が多くて大変だ』とこぼしていますが、人とのコミュニケーションを重視しているところがとても良い。ボランティアの授業もあって介護施設や地域の子どもたちのケアをしないと単位がもらえません。また、コロナ禍になってから学校側は速やかに全面オンライン授業に切り替えましたし、担任の先生が息子の様子を綴ったレポートを毎週私のもとに送ってくれます。メールや電話での問い合わせにも対応してくれるし、1人ひとりの生徒に手厚いサポートをしてくれています。街での募金やボランティア活動も多く、困っている人に手を差し伸べる文化が定着しているようです。日本では口では優しいことを言っても実際は面倒なことにかかわりたくないという人が多いのかな、という印象を持っています」。
現実問題、日本の平均年収は30年前から400万円台が続いており、増える気配はない。一方、アメリカはこの間、約2.5倍に増えている。確かに年間400万円の出費はこたえるが、わが子がアメリカの企業で働けば日本ではあり得ない高額の給料を将来手にするかもしれない。「息子は最近、『ぼくの本拠地はこっち(アメリカ)だ』と言うようになりました。現時点では、アメリカの大学卒業後に日本に帰ってきて住む気持ちはないようです。それも息子の意志ですから尊重したい。でも、どこかのタイミングで日本に帰ってきてほしいという気持ちはありますね。親子ですから。そして海外にいたからこそ日本の良さも分かる、そんなバランスの取れた大人になって欲しいと思います」。
子どもの夢をかなえたいという母親の愛情がスタート地点だったが、将来的には大きなリターンとなって返ってくる可能性が高い。