「ドライブ・マイ・カー」日本初の快挙も アカデミー賞作品賞ノミネートの決め手とは

濱口竜介監督が村上春樹の短編小説を映画化した「ドライブ・マイ・カー」が第94回アカデミー賞で作品賞、監督賞(濱口竜介監督)、脚色賞(濱口監督、大江崇允)、国際長編映画賞(旧・外国語映画賞)にノミネートされた。作品賞は日本映画初、脚色賞も日本人で初。その決め手になったものは?

映画「ドライブ・マイ・カー」の注目度がさらに高まっている【写真:(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会】
映画「ドライブ・マイ・カー」の注目度がさらに高まっている【写真:(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会】

村上春樹の短編小説が原作、濱口監督「原作の力の大きさ感じた」

 濱口竜介監督が村上春樹の短編小説を映画化した「ドライブ・マイ・カー」が第94回アカデミー賞で作品賞、監督賞(濱口竜介監督)、脚色賞(濱口監督、大江崇允)、国際長編映画賞(旧・外国語映画賞)にノミネートされた。作品賞は日本映画初、脚色賞も日本人で初。その決め手になったものは?(取材・文=平辻哲也)

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「ドライブ・マイ・カー」の快進撃が止まらない。昨年7月のカンヌ国際映画祭で日本人として史上初となる脚本賞(大江崇允と共同)など4冠を達成。昨年12月から全米各地でスタートした賞レースでは、ニューヨーク映画批評家協会賞(作品賞)、ボストン映画批評家協会賞(作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞)、シカゴ映画批評家協会賞(外国語作品賞)、ロサンゼルス映画批評家協会賞(作品賞、脚本賞)を受賞。今年に入っても、ゴールデングローブ賞では非英語映画賞、全米批評家協会賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞の4冠に輝いた。

 史上最多の投票数となった第94回アカデミー賞(会員9487人)。作品賞、監督賞、脚色賞のノミネートはうれしいサプライズ。日本映画史に残る快挙だ。2009年の「おくりびと」(監督・滝田洋二郎)以来の国際長編映画賞受賞はほぼ確実視されているが、脚色賞の可能性も大きい。

「ドライブ・マイ・カー」は同名の短編をベースに「シェエラザード」「木野」からもインスパイアを受け、179分の大長編に紡いだ。原作は妻を失った俳優・家福(西島秀俊)が若い女性の運転手・みさき(三浦透子)らと出会い、再び希望を見いだすストーリー。主人公がわずかな人との出会いを通じて、自身の内面を掘り下げていく。

 映画では、村上文学の世界を再構築し、映像的な奥行き、広がりを見せる。文学ならではの独特の間を映像世界でも見せ、かつ長尺を感じさせないのは脚本、演出の力だ。映画では、主人公の内面を、外とのつながり、空間の移動など視覚的に置き換え、まさに映画ならでは、の表現を見せる。特に、映画内演劇という仕掛けが見事だ。

「いろんな取材に受け答えしていくうちに感じたのは、原作の力の大きさです。普段自分がやれないようなレベルまで物語の大きさ、世界観の大きさが引っ張ってくれた感じがします。自分が描きたくなる登場人物たちでした。あまり余計なことは言わない。できるだけ本当のことを思うとする人たちです。でも、言えないことはあるわけで、それが人との関係性の中でほどけ、キャラクターが短編の外側に向かって生きていく」と、濱口監督はかつてインタビューで語った。

 濱口監督は現在、42歳。東京藝術大学大学院映像研究科出身。短編から長尺までこなし、ワークショップに参加した演技未経験の女性4人を主演に起用した5時間17分の「ハッピーアワー」(15年)がロカルノ国際映画祭などで主要賞を受賞した実績もあり、観客を飽きさせないことにはたけている。商業映画デビュー作「寝ても覚めても」(18年)ではいきなりカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、最新作のオムニバス映画「偶然と想像」も絶賛公開中だ。

 しかし、実績十分、作品がよくても、受賞にはつながらない。かつて、ゴールデングローブ賞を運営する「ハリウッド外国人映画記者協会」に所属する日本人からこんな話を聞いたことがある。「日本の映画や映画人は世界に通じるものを持っているが、プロモーションが足りていない。いくら良い作品を作っても、見てもらわないと俎上(そじょう)に載らない」。今回は、全米の配給元の招聘(しょうへい)を受け、昨年12月に全米プロモーションも行った。昨年11月、最新作「偶然と想像」(公開中)が仏ナント三大陸映画祭でグランプリ(金の気球賞)と観客賞を受賞後、そのまま米国に入っている。これも大きな追い風になっただろう。

 この「偶然と想像」の公開時のインタビューでは、「自分も映画祭の審査員をやったことがあるので、よく分かるのですが、賞は審査員が誰かによって左右される。賞を頂いても、喜びすぎないようにしないといけない」と語った。しかし、オスカーは数人による映画賞の審査とは異なり、世界80か国強9000人以上による人気投票。偶然ではかなうわけもなく、重みも意味も違う。

 カンヌ国際映画賞の表彰式では、名前を呼ばれたときにスピーチの内容を考えたとか。「脚本は映画には映ってないので、どうやってキャスト、スタッフを称えようか考えました」と濱口監督。オスカー授賞式では、直前ではなく、事前に考えておいていいだろう。

□濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)1978年12月16日、神奈川県生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科修了。商業映画デビュー作「寝ても覚めても」(18)はカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出。脚本を手掛けた「スパイの妻〈劇場版〉」(20)はベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞。

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