花田優一が振り返る中学時代 学校を抜け出した親友との旅、教師からの印象的な言葉

靴職人の花田優一の連載【花田優一コラム】。第65代横綱・貴乃花と元フジテレビアナウンサー・河野景子の長男で、靴職人の活動を中心に、画家としての活動、タレント業、歌手活動などマルチに活躍する優一。最新のニュースや世相をどう感じているのか。優一の視点で伝えていく。第2回は、自らの中学時代を振り返り、コロナ禍の学生たちにエールを送る。

花田優一【写真:荒川祐史】
花田優一【写真:荒川祐史】

第2回は自らの中学時代を振り返り、コロナ禍の学生にエール

 靴職人の花田優一の連載【花田優一コラム】。第65代横綱・貴乃花と元フジテレビアナウンサー・河野景子の長男で、靴職人の活動を中心に、画家としての活動、タレント業、歌手活動などマルチに活躍する優一。最新のニュースや世相をどう感じているのか。優一の視点で伝えていく。第2回は、自らの中学時代を振り返り、コロナ禍の学生たちにエールを送る。

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 その頃で80歳ぐらいだろうか、九州で出会った、背中の丸まったクシャッとほほ笑む女性に聞いてみたことがある。

「歳を取ると、どうして1年は早く感じるんでしょうね?」

 すると、少し下を向いてほほ笑み、「2歳の子の1年は2分の1、100歳の人の1年は100分の1だから、歳を重ねる度に、どんどん1年の重みが軽くなるんですよ」と答えた。

 抜け目のない、これでもかというほど気持ち良い返答に、快感を覚えたことを思い出す。今年もいつの間にか12分の1が終わってしまった。

 2011年3月11日、卒業式の予行演習のため中学校の講堂にいた。15歳の僕は、卒業後にボストンの高校へ入学することが決まっていた。それは、単なる留学ではなく、親元を離れ、手に職をつけるまで帰ってくることはできないという、修行の始まりを意味していた。だからこそ、卒業までの日々は、最後の思い出を残す大切な時間だったのだ。残された日々を淡々と過ごすわけにはいかない、何か強烈な思い出も残しておかなくては学生生活に未練が残ると考え、予行演習の途中に学校を抜け出して、そのまま親友と旅に出ることにした。それは言語道断で、退学に等しい行為だったことが、思春期の僕を強烈に刺激したのであった。

 予行演習が始まり30分ほどたったころ、「トイレに行ってきます」と席を立ち、講堂の周りに誰もいないことを確認して、下駄箱まで全速力で走った。朝、下駄箱の上に隠した荷物を手に、親友と学校の門を走り抜けた。跳ねるような自分とそこに吹く風は、快感そのもので、「青春だ!」と叫んでいるような気持ちだった。無事に、東京駅に向かうための湘南新宿ラインに乗り、目白の辺りを過ぎたころ、トンネルの中で電車が減速した。ゆっくりとトンネルを抜けると、周囲の電柱が折れそうなほどうねり、ボクシングジムの外国人がグローブをつけたまま、「やばい、やばい!」と電車の僕らに向かって叫んでいた。無論、その日が東日本大震災と名付けられるとは、想像もしていなかった。

 数日後、卒業間近であったということで退学は免れたものの、校長から退学と同等な程おしかりを受け、職員室に謝罪に行くと、大っ嫌いだった部活の顧問に、思いっきり蹴り上げられる始末。ただその後、僕の学生最後の思い出は、小柄な1人の国語教師の言葉によって締めくくられたのだ。

 その先生は、定年退職が決まっており、自分のロッカーを整理しながら、顧問に蹴り上げられる姿を隠れるように見ていた。ひとしきり謝罪が終わったのを見計らい、そっと僕に近づき、小さな声でささやいた。

「よくやったわね。最高の思い出だったでしょう。それで良いのよ」

 そして、しわくちゃなまぶたの奥のたまらないほどキラキラした瞳で、小さくウインクしたのだ。

 その後、津波の映像や、実際に行った被災地の壮絶さに、人生の価値観も大きく変わった。楽しんでいられる現実ではなく、窮屈で不安な日々だったことも深く刻まれている。しかし、その中でも、学生は思い出を刻まなくてはならないのだ。なぜなら、学生でいられるのは今だけなのだから。

「コロナ禍での入学試験」、「コロナ禍での卒業式」とパンデミックに左右される学生のニュースをよく目にする。運動会ができない学生はかわいそうだな、修学旅行も中止になるのか、と同情してしまう。しかし、今起きている窮屈な日々は、逃げも隠れもできない現実である。思い出を削られるような気持ちにもなるだろう、なんでこんな時に、と思うこともあるだろう。しかし、目線を変えれば、パンデミックの中での学生生活は、君たちにしか経験できない現実だ。それは正に、君たちにしか作れない特別な思い出があるはずだ、ということなのだ。

 大人になると、学生生活の思い出がとてつもないエネルギーになることがある。

 今しか残せない思い出を残そう。中学生の僕も、今の僕も、そう思って生きている、だから楽しい。

□花田優一(はなだ・ゆういち)1995年9月27日、第65代横綱・貴乃花と元フジテレビアナウンサー・河野景子の長男として東京に生まれる。15歳で単身アメリカ留学。その後、18歳でイタリア・フィレンツェへ渡り、靴職人修業。2015年に帰国後、工房を構え、作品を作る日々を送る。靴職人としての活動の傍ら、タレント業、歌手活動なども行っている。

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