藤井 風は“日本ポップスの完成形” 紅白で大注目、幅広い層に支持される理由とは?
「こんなJ-POP聞いたことがない」……藤井 風。24歳の青年は歌で真実を伝えてくれる新しいタイプのミュージシャン。そして皆さんと同じように筆者も彼の音楽に心を奪われてしまったひとり。プロの音楽家としてその理由を知りたい。そんな思いで藤井風の楽曲の魅力を探ってみた。
第72回NHK紅白歌合戦で起きた音楽史的な「事件」
「こんなJ-POP聞いたことがない」……藤井 風。24歳の青年は歌で真実を伝えてくれる新しいタイプのミュージシャン。そして皆さんと同じように筆者も彼の音楽に心を奪われてしまったひとり。プロの音楽家としてその理由を知りたい。そんな思いで藤井風の楽曲の魅力を探ってみた。(文=“you-me”成瀬英樹)
紅白での藤井 風のパフォーマンスはポップス史に残る「事件」であったと筆者は考えている。
司会の大泉洋は「藤井 風さんが出るっつってうちの妻と娘がめっちゃ喜んでました!」と彼一流の賛辞で茶の間に紹介し、実家の岡山に中継が切り替わる。藤井自らカメラのスイッチを入れてヒット曲「きらり」の演奏が始まった。
膝に置いた電子ピアノを叩きつけるように弾き、ささやくようにシャウトする。ところが鍵盤を高音部から低音部へとグリスした瞬間、唐突に演奏を止めてカメラのスイッチを切った。
ここで画面は紅白の会場に戻る。すると驚くことに藤井は会場の舞台袖にいた。カメラに向かってキメ顔で「Come On」のポーズを取りながら中央に置かれたグランドピアノへ。観衆のどよめきが歓声に変わる。驚きのあまり、口が開いたままの審査員。困惑を隠せない司会者たち。数秒間の静寂の後、演奏は静かに立ち上がり、やがて熱くほえる名曲「燃えよ」。
まさに異次元だった。歌詞は工夫とひらめきに満ちていてメロディーセンスは懐かしくも新しい。ボーカルは天性の勘の良さと正確なピッチ。そしてあの長い指で奏でるピアノ。ピアノだけでも十分にプロでやっていける腕前だ。加えて圧倒的なスター性がある。過去のJ-POPアーティストを振り返ってみてもこれほどまでにすべてを兼ね備えたアーティストを筆者は知らない。
彼は日本のポップスの完成形である。10代からYouTubeで演奏動画を公開して、そこで披露してきたキャロル・キングからテイラー・スウィフトまで世代を超えて親しめるポップミュージックを血肉にしながら、その延長線上に今があり、なおかつ日本中がそれをリアルタイムで見てきたというまったく新しいタイプのスターだ。