桝太一アナ、研究者転身「サイエンスコミュニケーション」って何? 協会会長に聞いた
日本テレビの桝太一アナウンサーが、3月末で同局を退社して大学の研究員に転身することを発表し、話題を集めた。桝アナは「科学の伝え方」を研究・実践するため新たな一歩を踏み出す。桝アナが学ぶ「サイエンスコミュニケーション」とは、どんな研究分野で、どのような役割があるのか。「一般社団法人 日本サイエンスコミュニケーション協会」の渡辺政隆会長に教えてもらった。
「一般社団法人 日本サイエンスコミュニケーション協会」渡辺政隆会長 桝アナと同志社大の“研究者同士”に
日本テレビの桝太一アナウンサーが、3月末で同局を退社して大学の研究員に転身することを発表し、話題を集めた。桝アナは「科学の伝え方」を研究・実践するため新たな一歩を踏み出す。桝アナが学ぶ「サイエンスコミュニケーション」とは、どんな研究分野で、どのような役割があるのか。「一般社団法人 日本サイエンスコミュニケーション協会」の渡辺政隆会長に教えてもらった。(取材・文=吉原知也)
「一般の方に、科学を人ごとではなく、自分の問題として捉えて、より理解を深めてもらうこと。一方で、専門家は一般の方が何を知りたいのかをくみ取り、社会にどう役立てるのかを考えて伝えること。一方的に教えてあげるではなく、双方向的な語り合いが、サイエンスコミュニケーションの基本的な理念です」。渡辺会長は、こう説明する。
サイエンスコミュニケーションの概念が生まれたのは、世界的に2000年前後のことで、比較的最近だ。科学技術が著しく発展する中で「専門家に任せておけばいい」ということではすまない社会問題が増え、科学技術をめぐる社会の認識にギャップが生じてきたという。渡辺会長によると、大きなきっかけは、「BSE(牛海綿状脳症)問題」。英国では政府・専門家による発表内容の信用性が揺らぎ、01年から社会問題化した日本でも食の安全性が厳しく問われることになった。
専門家にとっては科学・技術の伝え方の見直し、一般市民にとっては自分の問題として科学に向き合う必要性が増してきた。こうした機運が高まり、科学をめぐるコミュニケーションの内容と方法が見直されることになったという。
渡辺会長は日本独特の事情も指摘。「日本では80年代以降、理科離れが表面化していました。長らく『科学は楽しい』というテーマで教育に取り組んできた成果はありますが、“科学は嫌いじゃないけど苦手”と公言する人が多いのではないでしょうか。『楽しい』の先にある、科学を生活に生かすこと、社会の中でどう活用したらいいのかを考えること、こういった視点を持つようになることが必要です。そもそもそこからのコミュニケーションが重要なのです」と説明する。
くしくも、日本では科学が関連する社会問題が続出。遺伝子組み換えなどの食の安全、東日本大震災の原発事故における放射線、新型コロナウイルス禍でのワクチン。自然災害時の防災も重要であり、一般市民はどんな情報を求めていて、専門家は何を語るべきなのか。報道・メディアの質も問われている。渡辺会長は「日本でもサイエンスコミュニケーションの理解が少しずつですが広まってきました」と話す。