【週末は女子プロレス#28】引退10カウントゴング中にまさかの撤回 大バッシングから売れっ子になった米山香織のいま
まさかの大どんでん返し あっけにとられた観客席
そして迎えたラストマッチ当日。この日、引退していた中島安里紗が2年8か月ぶりに姿を現し現役復帰を発表した。戻ってくる者もいれば去る者もいる…はずだったこの大会のメインイベント、米山の相手はデビュー戦や10周年記念マッチでも相手を務めてくれた春山香代子だった。試合はダイビングギロチンを食らった米山のフォール負け。リング上ではセレモニーが進行。見た目には有終の美へと進んでいたのだが…。
「何を言ったか覚えていないんですけど、あいさつの途中で、『プロレスまだやりたいから、やめるのやめます』と言おうかと思ったんですよ。でも、後楽園ホールに満員のお客さんが集まってくれてるじゃないですか。そう考えたらそんなこと言えるはずないよと思って、そのままあいさつを終えたんですね。ただ、そのあとの10カウントゴングで、これが鳴り終わったらやめなければいけないんだと思って、ダメだダメだ、終わっちゃう終わっちゃう、何回目鳴らしてるか分かんないけど、『ちょっと待ってください!』って、止めてしまったんですよね」
嫌な予感もあったとはいえ、まさかまさかの引退撤回。引退ロード途中ならまだしも、セレモニー真っ最中での撤回は世界でも例がない史上初の出来事。確かに、セレモニー中に「やめないで!」とファンから声が発せられることはある。とはいえ、本当に撤回されるとは思っていないだろう。
プロレス界では引退後の復帰は枚挙にいとまがないが、このような撤回はあってはならないこと。いまや何でもありのプロレス界だが、さすがに引退当日の撤回は後にも先にも一度きりだ。
というのも、コマンドボリショイのJWPが二度と起きてはならない悪例として迅速に対応、当日どころか引退ロード全大会のチケット払い戻しに応じたのだ。当然、団体には大損害となる。米山は解雇を申し入れたのだが、ボリショイはそこまでプロレスをやりたいのなら一緒に頑張ろうと慰留。米山には他団体を含め試合の機会が減ることはなかったのだが、やりたいはずのプロレスを続ける彼女の姿は実に苦しそうだった。とんでもないことをしてしまったと、責任を痛感していたのだ。
しかし、吹っ切れてからは翌年にJWPを退団したものの、さまざまな団体で活躍。時を経て古巣(現PUREーJ)にも帰還した。ゴキゲンなプロレスを標榜し、ほぼ10年間、コンスタントに多団体で試合をしているのである。
「撤回からしばらくはつらかったです。試合は頑張らなくちゃいけないけど、弾ければ弾けたでなんだよと思われるし、プロレス楽しいから続けたいのに楽しくない。なんなんだろうと思って。でも、さくら(えみ)さんとの試合に負けて強制的にタイに行かされてからはリフレッシュされましたね。現地でプロレスやりたい子を集めて一緒に練習したりして、気持ちが生き返ったというか」
12年以降、彼女は常に年間で二桁の団体に参戦。その多くがレギュラーだ。とくに40歳を迎えた今年はいくつものタイトル戦線に参入。3月にはPUREーJ認定無差別級王座を奪取し、JWP時代のオマージュとも思える他団体での防衛活動を実現させた。OZアカデミーでは4月にタッグ王座、6月に無差別級王座を戴冠。12月にはwaveのリングでディアナの3WAYタイトルを奪取し、エリザベス王者となった。まさに狂い咲きとも言える活躍で、ベルトに手が届かなかったとしても、スターダムでの別キャラ、フキゲンです★で、ハイスピード王座に挑戦。waveではリーグ戦の成績からシングル王座次期挑戦者決定戦を野崎渚と争った。また、SEAdLINNNGではタッグトーナメントにエントリーし、タッグ王座挑戦権をかけた決勝まで勝ち進んだ。