「飲む中絶薬」に産婦人科医が指摘する懸念 安易な中絶だけでなく、悪用の可能性も

人工妊娠中絶ができる経口薬「飲む中絶薬」が注目を集めている。英製薬会社「ラインファーマ」が、12月下旬に厚生労働省に製造販売の承認申請をする方針を固めたとの報道を受け、議論が活発化。順調に審査が進めば1年以内に承認される見通しだが、安価で女性の体への負担が少ない中絶方法として期待される一方、現場の産婦人科医からは導入に慎重な意見も上がっている。

人工妊娠中絶ができる経口薬「飲む中絶薬」を巡る議論が起きている(写真はイメージ)【写真:写真AC】
人工妊娠中絶ができる経口薬「飲む中絶薬」を巡る議論が起きている(写真はイメージ)【写真:写真AC】

英製薬会社が人工妊娠中絶ができる経口薬の製造販売を承認申請する方針を固めたとの報道

 人工妊娠中絶ができる経口薬「飲む中絶薬」が注目を集めている。英製薬会社「ラインファーマ」が、12月下旬に厚生労働省に製造販売の承認申請をする方針を固めたとの報道を受け、議論が活発化。順調に審査が進めば1年以内に承認される見通しだが、安価で女性の体への負担が少ない中絶方法として期待される一方、現場の産婦人科医からは導入に慎重な意見も上がっている。

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 高度不妊治療で有名な杉山産婦人科の杉山力一理事長は「10数万円かかる中絶手術と違い、母体への負担が少なく、諸外国ではだいたい1000円以内で処方できる。経済的に厳しい女性でも望まない出産を避けられる」と「飲む中絶薬」のメリットを認めつつ「やはり安易に中絶ができてしまう」とその問題点を指摘する。

「まだ申請されるだけで何も決まっていない状態ですが、そもそも人工妊娠中絶手術は母体保護法指定医師しかできません。母体保護法は医師法の上に上乗りした高度に倫理的な法律なんです。それが薬だからといって医師なら誰でも処方できるとなるなら大問題。薬局での販売などもってのほかで、処方できるのはこれまで通り母体保護法指定医師のみにするべきです」

 手術とは違い、手軽に持ち出せる薬ゆえに、悪用される可能性も無視できないという。

「処方してもらった中絶薬を他の妊婦にあげたりしたら、それは殺人と変わりません。流通ルートも厳しく取り締まるべきで、例えば病院で渡されたその場で飲んでもらうなどの対策が必要となるのではないでしょうか」

 厚労省によると、2020年の国内年間累計中絶件数は約14万5000件。正確な統計データはないものの、日本は他国と比べても圧倒的な「中絶大国」だという。その理由について、杉山理事長は社会の無理解をあげる。

「言ってしまえば経口避妊薬、いわゆるピルの服用率が圧倒的に低いのが理由です。ピルは避妊だけでなく生理周期の調整や月経困難症の緩和、子宮内膜症の治療など幅広い目的で使われていますが、いまだに日本では『ピルを飲むのは性にだらしない女だ』『未成年がピルを飲むなんてけしからん』という誤った理解がある。そういった風潮が女性がピルを飲みづらくさせ、望まぬ妊娠や中絶を増やすことにもつながっている。本来なら、飲む中絶薬よりも先にピルの普及を図る方が順序が合っているのではないでしょうか」

 世界ではすでに70か国以上で使用されるなど、適切に扱えばメリットの大きい「飲む中絶薬」。その一方で、安易な中絶の増加を防ぐためには、新たな法整備と一人一人の意識のアップデートが改めて必要となりそうだ。

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