eスポーツ選手は“カッコいい存在”へ 若手社長は「カルチャーを作り出す側」を目指す
ゲーミングベース設立に込められた「カルチャーを作り出す側」としての覚悟
――以降は急成長を続ける中で、9月にゲーミングベースを備えたオフィス設立を発表。大きなインパクトを与えました。
「ずっと、オフィスが欲しかったんですよね。日本ではゲーミングハウスを持つことが重要視されていて、僕たちも最初はマンションを借りて、選手たちを集めて生活を始めようとしたんですが、そのタイミングでコロナ禍が重なって、なかなかうまくいきませんでした。ゲーミングハウスは海外でもお金がない中での“ドリーム”としては使われていたものの、eスポーツが発展している国では、すでに使われていないと知ったんです。世界大会などで現地のチームに事情を聞くと、シンプルにオフィスなんですよ。今の僕たちのオフィスと同じで、社員のワーキングスペースがあり、クリエイティブチームがいて、選手たちはゲーミングベースで仕事としてゲームをする。部屋ごとに部門が分かれていて、食堂も付いている。『これが世界でも有名なチームがやっていることなのか』と思いました。日本では、近くの寮からゲームをするために(オフィスに)通うという概念がなかったんです。その中で、自分たちがアクションを起こすべきだと思ったんです」
――発想としては、リアルスポーツのクラブハウスに近いものを感じました。
「リアルスポーツ寄りの考え方だと思います。僕らは約1年前に渋谷のスクランブル交差点に広告を出しました。そこには、eスポーツの価値観を変えたいという思いが大前提にあります。自分たちをゲーマーとしてではなく、たまたまゲームをしている、単純にカッコいい存在として見せたいという思想がありました。僕たちにとって“尖っているもの=アスリート”であり、カルチャーを作り出す側として“ダサいこと”をやめていったという経緯があります。そして、そうしたアクションを取るなら自分たちが率先して取り組まないといけないと思い、カッコいいオフィスを構えるということにもつながっています」
――「Not Just a Game」から「Road to Clutch」へのリブランディングもされました。
「1年前なら『Not Just a Game』と言えていたんです。ゲームについてどうこう言われることも多かったですから。でも、今はコロナ禍もあってゲームがより一般に浸透して、億単位の優勝賞金が出るようなリーグもできた。これはもう『Not Just a Game』だと時代に乗り遅れているなと思い、もう少し先を見据えたときに『Road to Clutch』というワードが出てきました。eスポーツ用語のクラッチは、『1vs3クラッチ』などと言われ、大逆転する瞬間を表します。僕はその瞬間が大好きで、『瞬きさせない瞬間へ』というサブコピーも入れました。あまりにもすごすぎるプレーを見たとき、言葉が出ないことがある。そういう瞬間を表しています。あわせて行動指針、企業理念もアップデートしています」
――ゲーミングベース設立とともに「Apex Legends」部門の3選手加入、ストリーマー部門(※)のShomaru7の加入など、さまざまなことが一気に発表されました。
「ビジネスマンにしか刺さらない発表になってしまっては残念ですし、いろいろな人に知ってもらいたい、特にeスポーツファンの方に知ってもらいたいと思い、『Apex』の選手やストリーマーのShomaru7の獲得を同時発表しました。僕らがもっとカルチャーを作る側に回るということを発信したかったんです」
――特にShomaru7はREJECTとして初のストリーマー獲得となりました。その経緯はどのようなものだったのでしょうか。
「eスポーツチームは、ブランドと同じだと思っているんです。イメージとしては、リアルスポーツのクラブチームと、YouTuber等のタレント事務所の間でしょうか。僕たちの会社の思考はアスリート寄りですが、目指している姿は、野球を例に取ると大谷翔平選手や田中将大選手のようなポジションでいながら、HIKAKINさんのようなことをやるということ。そうなっていくために、アスリート軸だけでは厳しいと感じていました。まずはスポーツチームとして作り上げてきた中で、次はタレント的要素を強化していく。強さと人気という2つの軸があれば、一気に拡大するだろうなと思ったんです。そのためにまず、選手を辞めてストリーマーとして人気を得ていて、僕たちのカルチャーを分かってもらえると感じたShomaru7に声をかけました。
Shomaru7は人としてすごく魅力があって、ギリギリのラインを攻めたとしても、ファンの方がちゃんと守ってくれるんです。ファンにも人柄の良い方が多く、すごく温かい。実は加入発表のときはいろいろトラブルがあったんですが、彼のファンの文化のおかげもあり、そこまで失敗として受け止められなかったんです。今後はストリーマーの活躍がすごく重要になってくる中で、人柄が良く、長くご一緒できそうな方とやれるというのは大きいですね」
※動画配信サイトでのライブ配信などを中心に発信するインフルエンサー。