ノーベル賞級研究の結果、新型コロナ「ワクチンの女神」波瀾万丈の足跡をたどる
世界中をパンデミックに陥れた新型コロナウイルス。ここにきて日本では新規感染者が激減し、ワクチン効果が指摘されているが、そのワクチン開発の基礎となったRNA研究を40年続け、「ワクチンの女神」とも呼ばれるハンガリー人女性がいる。アメリカ在住の生化学者、カタリン・カリコさん(66)。数々の苦難にもめげず、前向きな生き方といちずな研究姿勢でノーベル賞級の結果を出した歩みをたどる「世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ」(ポプラ社)が注目されている。リモートインタビューなどを通じて、カリコさんの素顔に迫ったジャーナリストの増田ユリヤさんに聞いた。
カタリン・カリコさんにインタビューしたジャーナリスト・増田ユリヤさんに聞く
世界中をパンデミックに陥れた新型コロナウイルス。ここにきて日本では新規感染者が激減し、ワクチン効果が指摘されているが、そのワクチン開発の基礎となったRNA研究を40年続け、「ワクチンの女神」とも呼ばれるハンガリー人女性がいる。アメリカ在住の生化学者、カタリン・カリコさん(66)。数々の苦難にもめげず、前向きな生き方といちずな研究姿勢でノーベル賞級の結果を出した歩みをたどる「世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ」(ポプラ社)が注目されている。リモートインタビューなどを通じて、カリコさんの素顔に迫ったジャーナリストの増田ユリヤさんに聞いた。(取材・文=倉野武)
「なぜか彼女のことが気になって仕方がなかった」――。今年2月、増田さんはニュース解説のため出演したテレビ番組で、ファイザー製とモデルナ製のmRNA(メッセンジャー・アール・エヌ・エー)ワクチンに触れ、その開発にカリコさんの研究が貢献したことを紹介した。「そのとき、彼女がどうして長い間そのこと(RNA研究)にこだわってきたのか気になりました。私、理屈じゃなく、“野性の勘”で物事を考えるところがあって、気になったことを掘り下げていくと、大体何か出てくるんです」。
その言葉通り、取材を進めていくと波瀾万丈の足跡が浮かび上がった。3月31日、米国のカリコさんにリモートでインタビューを行った。「カリコさんにはご自宅から答えていただきましたが、予定時間を超えて1時間以上。明るく快活、裏表がないという印象でした」と増田さん。インタビューの様子は4月17日にYouTubeにアップ。その後、本書の出版が決まり、カリコさんの高校時代の恩師、アルベルト・トート氏へのリモートインタビューや、カリコさんの娘で五輪(ボート)で2大会連続金メダリストのフランシアさんら取り巻く人々のコメントなどから、カリコさんの人生と研究の意義をさらにクローズアップした。
本書によると、カリコさんは1955年生まれ。ハンガリー東部の小さな町で高校まで過ごした。幼少期から好奇心旺盛で、すでに小学校時代に才能の片鱗を見せていた彼女を見いだしたトート先生の指導を受け、高校の生物学研究サークルで学ぶ。同サークルではトート先生の計らいで、ハンガリー出身でビタミンCを発見し、ノーベル生理学・医学賞を受賞したセント・ジュルジ・アルベルト博士や、「ストレス学説」で知られる科学者、ハンス・セリエ博士と交流。とくにセリエ博士から贈られた著書「生命とストレス」を読み、「自分自身の頭と目で先入観なしに進んでいけ」という科学者としての姿勢に影響を受けた。