大ヒット作「イカゲーム」EP7解説 寝室に全ゲーム予告する絵 「飛び石渡り」はチェスに類似
Netflixオリジナルの韓国ドラマ「イカゲーム」が世界的な人気を集めている。9月17日に配信が開始されるとNetflix全米1位を獲得する快挙を達成。配信後ほぼ1か月で全世界1億4200万世帯が視聴し、94か国でランキング1位を記録するなどNetflix創業以来最大のヒット作となっている。画面の隅々まで行きわたっている伏線の“構成美”について解説するコラムシリーズ。今回は第7話(エピソード7)について紹介する。
大根キムチのカクテキには「余った人」の意味も
Netflixオリジナルの韓国ドラマ「イカゲーム」が世界的な人気を集めている。9月17日に配信が開始されるとNetflix全米1位を獲得する快挙を達成。配信後ほぼ1か月で全世界1億4200万世帯が視聴し、94か国でランキング1位を記録するなどNetflix創業以来最大のヒット作となっている。画面の隅々まで行きわたっている伏線の“構成美”について解説するコラムシリーズ。今回は第7話(エピソード7)について紹介する。(文・構成=鄭孝俊)
(※以下、ドラマの内容に関する記述があります)
「イカゲーム」第7話のタイトルは「VIPS(VIPたち)」。ビー玉遊びゲームが終了し勝ち残った参加者が共同寝室に戻ってくると、誰ともペアを組めず赤い服の男たちに連行されていったハン・ミニョの元気な姿があった。あぶれた者は脱落ではなく“カクテキ”として残留できたのだ。「疎外された弱者は捨てない」というのが運営側の主張。カクテキとは大根のキムチのことで、韓国語の「角切り」が語源。角切りした大根を塩漬けにして唐辛子、ニンニク、ショウガ、魚醤などをもみ込み熟成させる。
これとは別にカクテキには「余った人」の意味がある。2つのチームに分かれる際、人数が奇数だと最後に1人余ってしまう。数種類のキムチを作る際も最後に大根が余ってしまうことが多いという。また暴力団組織の一員という意味もあるようだ。ビー玉遊びでペアを組む際、最初はおじいさんのイルナムが余っていた。ネットでは「イルナムがカクテキになっても生存できるルールにしたのでは」との推理が出ている。
寝室の壁にピクトグラム 全ゲームは予告されていた
多くの参加者が脱落したためベッドの数も減っていく。だんだん露わになっていく白い壁面をよく見ると何か絵のようなものが見える。実はドラマの中に登場する全ゲームがオリンピック競技種目のピクトグラムのように描かれていたのだ。劇中の参加者は誰も気付いていない様子だ。信頼できるパートナーを葬ってしまった生存者は呆然自失の状態。冷静な状況判断や情報収集ができなくなっている心理状態とゲームの全貌が巧妙に共存している。
次いで登場するのがタイトルにもあるVIPたち。ヘリコプターで砂浜に降り立ち会場へと案内される。このデスゲームはフロントマンやホストが自分たちだけで楽しんでいるのではなく、VIPをもてなすための娯楽であることが示される。6人のVIPは動物の覆面をかぶっており、フロントマンと英語で会話する。VIPたちは「韓国の大会がベストだった」と話していることから、このデスゲームは世界各国で開催されているという設定のようだ。つまり、格差社会の底辺からはい上がるために人々がゲームに命を懸けるといった現実は決して韓国だけの事情ではなく世界のあちこちに存在するということだ。
フロントマンの報告を聞くホスト(黒幕)がここで初めて登場する。終始無言だが、仮面を脱ぐ際の手を見ると年齢を感じさせる肌だ。しかも、後ろの生え際が白髪っぽい。ホストの正体がイルナムであることをほのめかす重大なヒントになっている。フロントマンはVIPに「次のゲームはもっとお楽しみいただける」とアピールした。前回の第6話で運営側は「ここでは皆が平等でありチャンスも公平に授かるべき」と“純粋な理念”をうたっていたが、実際にはVIPたちの賭け金稼ぎが目的であり、すべては欺瞞(ぎまん)であることが明かされる。
「飛び石渡りゲーム」の参加者は16人
次いで第5の関門である「飛び石渡りゲーム」がベールを脱ぐ。巨大できらびやかなサーカス会場のようになっており空中に橋が架かっている。ガラスの列が2列あり、普通のガラス板と強化ガラスの2種類が混在している。見た目で区別はできないため、16人の参加者は自らの勘だけを頼りにガラス板を飛んでいかなければならない。普通のガラス板を踏むと体の重みで割れ、はるか下のコンクリート床に落下して命が砕け散る。
マネキンが着ているゼッケンの選択で1番を手にしたギフンは、別の参加者の申し出を受け入れ最後の16番となった。1番を譲ったのは正解だった。普通のガラス板を踏んだ参加者は次々と落下していく。ギフンは前の参加者の結果を見ながら作戦を立てることができる。その様子はVIP室の模型で再現されており、参加者を模したチェスのようなガラス製の駒は馬の形をしている。チェスは白・黒それぞれ16個の駒を使って相手のキングを追いつめるゲームであり、飛び石渡りの参加者が16人であることと一致している。また、馬の形の駒は第1話でギフンが競馬に興じる姿をほうふつさせる。
「裏切ったら殺す」と乱暴者のドクスに念を押していたミニョは、ドクスの腰に手を回して落下。自身の命と引き換えにドクスへの復讐を成し遂げた。結局、飛び石渡りでは後方にいた14番のセビョク、15番のサンウ、16番のギフンが生き残った。欧米の白人らしきVIPたちは酒を飲みながら大金を賭けて黄色人種のデスゲームに興じている。南国リゾート地のようなVIP室には装飾された全裸の人間が奴隷のように仕えている。制作チームは、欧米とアジアの不均衡といった構図を画面の中に作り上げていた。
次回は第8話(エピソード8)を取り上げる。