選手のファイトを支える林リングドクター 見守る心境は「緊張感でピリピリ」
頭部のダメージには警告も「脳震盪を選手は安易に考えすぎている」
こんなこともあった。リング上で意識を失い、救急車で病院に運ばれた選手が、しばらくすると起き上がり、何事もなかったかのように帰って行ったという。
「私も何度も驚かされる。普通の人ならもうダメ、というダメージを負っても選手は平気」とプロレスラーの超人ぶりに太鼓判を押す。鍛えぬいた体とファイティングスピリットのなせる業だろう。
とはいえ、頭を打つ危険な大技が増えてきた昨今のマット界。「危ないシーンの連続。こちらも気を抜けない。緊張感でピリピリ」と試合を見守っている。危険と判断し声をかけても選手は「やる」としか言わない。頭部のダメージに厳しい目が向けられるようになってきたが「脳震盪(とう)を選手は安易に考えすぎている」と警告も忘れない。
「危ない」と思ったらやめる、休むことも大切。リング禍は避けなければならない。時には、勇気ある撤退も必要だ。悲しい事故を作るのも防ぐのも選手。プロスポーツで興行なのだから、いろいろな兼ね合いもあるが「苦渋の決断で立ち止まることも選手、団体、ひいてはマット界に必要な判断だ」と力説する。
デスマッチ団体のリングサイドにも座ったことがある。全員が血だるまになっている。試合終了後、これは応急処置で忙しくなると、医務室で待っていたのに誰一人やって来なかった。「みんな、多少の流血は自分たちで何とかしてしまうんだね。待ちぼうけだった衝撃を今でもよく覚えている」と天を仰いだ。
コロナ禍前には帰国する外国人選手が「日本の痛み止めの方が効く」と弘邦医院にやってきた。「外国人選手の方が痛みに弱いね。そのくせ、注射を打ってくれ、とうるさかったりする」と苦笑いである。
「プロレスは受けのスポーツ。やられてもやられても引かずに、最後には勝つ」と、プロレスの魅力を分析するドクター林。リング禍をなくすためにも、リングサイドに欠かせない存在だ。