「二月の勝者」名門中学受験塾名が原作と異なるワケ 「ルトワック」の“謎”を探る

大手中学受験塾「ルトワック」の校名に込められた“謎”

 単語または文の中の文字を入れ替えることによって別の意味にさせるアナグラム(anagram)の一種であることを疑うと、「ルトワック」は「クルット(ル)ワ=狂っと(る)わ」(「ル」を2度使い)という言葉になり、壮絶な受験戦争とその戦場に子どもを送り込む親の“狂気”に対する強烈な皮肉となる。

 ただ、原作漫画の展開を見ると、黒木の発言には親の誤解や偏見を打ち砕く合理性があり、小学生が中学受験することの意義が説得力をもって描かれていく。となると、何か別の意味が込められていそうだ。ヒントとなるのは「ルトワック」の英語表記。劇中に登場するポスターには「LUTTWAK」と書かれている。これは1942年生まれのアメリカの国際政治学者エドワード・ルトワック(Edward Luttwak)と関係がありそうだ。

国際政治学者の「逆説の論理」がキーワード

 ルトワックの著書としては「エドワード・ルトワックの戦略論」(武田康裕、塚本勝也訳、毎日新聞社、2014年)や「戦争にチャンスを与えよ」(奥山真司訳、文春新書、17年)などが出版されており、その中でルトワックは「パラドキシカル・ロジック」(逆説の論理)という概念を提唱している。単純化して説明すると「『戦略の世界』では、勝利が敗北につながるように、敗北も勝利につながる」(「戦争にチャンスを与えよ」132頁)ということ。

 ルトワックはナポレオンを例に挙げて、「ナポレオンは、戦場で強かったので、勝利を収めながら前進していった。ところが、前進しすぎた。祖国から遠く離れ、ロシア内陸まで侵攻し、結局、敗北してしまったのだ」と説明している。逆に「前線で負けて祖国に向かって撤退し、そこに敵が侵入してくると、戦闘への本気度が増すことで、最初の敗北が勝利につながったりする」とも論じている(同頁)。

 原作漫画では、第1志望校合格の見込みが薄い生徒が黒木の助言を得て成績を上げていく姿なども描かれている。“敗者”と見られていた低偏差値の生徒が、勉強のやり方(=戦略)次第で“勝者”に育っていくのだ。ドラマ「二月の勝者」に登場している「ルトワック」という校名には、そうした願いが込められているのかもしれない。

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