「北の家族」ヒロイン、伝説の女優が38年ぶりメガホン「本当は映画をやりたかったです」
名女優・田中絹代からは「映画は映ってなんぼですからね」
1974年、朝ドラ「北の家族」のヒロイン役で人気になったが、「本当は映画をやりたかったです。だって、1年間お預けになってしまうじゃないですか。朝ドラの終わりに会いに来てくれたのが、熊井啓監督。当時、文学座に所属していたんですけども、文学座は本当はやらせたくなかったんです」。その後、映画「サンダカン八番娼館 望郷」(74年)では、アジアに渡った娼婦「からゆきさん」だったヒロインの若い時代を演じ、名女優・田中絹代がその晩年を演じた。
「絹代さんとはキャンペーンではよくご一緒いたしましたね。新幹線でも隣同士になって、『映画は映ってなんぼですからね』って。主演は俳優座の栗原小巻さんでしたが、自分はよく頑張ったという自負もおありだっただろうし、洋子ちゃんも頑張ったよね、という気持ちもあったんだと思います。絹代さんは何本も商業ベースの映画を監督されたすごい先輩ですが、監督業について聞かれると『若気の至りでした』とおっしゃっていました」
70年代は名だたる名優とも共演。「『旅の重さ』では三國連太郎さん、朝ドラでは左幸子さん。そばでボーと見ているだけでも学びがありました。(77年テレビ朝日系ドラマ『田舎刑事』で共演した)渥美清さんには随分、かわいがってもらいました。原宿の中華料理屋での気の合う仲間との会にも誘っていただき、渥美さんの代官山のマンションまでの道すがら、よく話しました。渥美さんは『洋子ちゃん、映画は残るからいいよね』っていうんです。本当にそう思います。デビュー作の『旅の重さ』は来年で公開50年。それでも、いろんなところで上映され、本にも書かれていますよね」。
高橋にとって映画とは何か。「情熱の塊かな。神代辰巳さん、熊井啓さん、市川崑さんの現場でも、凝縮された一つの世界ができ上がるんです。もちろん、その渦の中で、大変なこともあるけど、終わってみればすべてよし。今回の3泊4日で撮った映画でも同じようなことを感じました。私自身は監督になりたいという思いはないんです。企画を立てて、本を書いて、スタッフを集めて演じられれば、それでいい。これからも映画をやっていきたいですけども、思い通りにならないのが人生。折々、素敵な作品でチームを組んで撮れたらいいな、と思っています」。
9月に大手芸能事務所「スペースクラフト・エージェンシー」に移籍したばかり。伝説の女優の新たな挑戦は、ここからまた始まる。
□高橋洋子(たかはし・ようこ)1953年5月11日、東京都出身。72年、高校卒業と同時に文学座付属演劇研究所に入所(同期は松田優作氏)。同年、映画「旅の重さ」のオーディションに合格、ヒロインとしてスクリーンデビュー。73年、NHK朝の連続テレビ小説「北の家族」のヒロインに抜てきされる。74年、映画「サンダカン八番娼館 望郷」で、田中絹代が演じる主人公の10代~30代を演じ話題に。81年、小説「雨が好き」で作家デビュー(第7回中央公論新人賞受賞)。83年、同小説を自らの監督・脚本・主演で映画化した。主な出演作は映画「さらば箱舟」「パイレーツによろしく」など。2021年9月からスペースクラフト・エージェンシーに所属。