藤井3冠の強さが表れた1局 JT杯で見せた精度のブレない指し回し 真田圭一八段解説

真田圭一八段の新著「矢倉の手筋」(マイナビ出版)
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「なんとなく怖い」を打ち負かす強さが光った

 対する千田七段も、慌てずに丁寧に対応する。ポイントは76手目にあったと思う。受けの方針を貫くなら、△1三香と香を渡さない指し方もあっただろう。本譜は攻め合い志向の△8六歩。ずっと受けに回っていた側が、いつ攻め合いに転じるかはプロでも本当に難しく、それこそいくら時間があっても足りないくらい微妙な判断だ。千田七段が期待したのはその後の78手目△8七歩。この王手の対応は本当に悩ましく、どう応じても一長一短で、まさしくセンスが問われる局面だ。私が最も注目した局面でもある。

 実戦は▲8七同金。この手もかなり指しにくい手だ。玉の横腹が空く、△7五桂で金を削られる等、マイナスを挙げればキリがない。だが他の対応より、本譜が一番マイナスが少ないと判断した。この辺りが藤井3冠のセンスなのだろう。

 その後、飛車に弱くなった先手陣だが、安易に遠くに逃げずに85手目▲3九飛と飛車を攻撃活用したのも地味だがしっかりした手。△3八と▲同飛△4九角が気になるが、▲4八飛で飛車を渡しても大丈夫と見切っている。このように、「なんとなく怖い」という気持ちに流されず、はっきり良しとなるまではリスクを背負えるところに強さを感じる。

 内容的には、91手目▲7五桂が攻防の一手で、以下は藤井3冠が攻め切っての勝利となった。早指しでも、1局を通して大きく精度がブレることのない指し回し。藤井3冠の強さがよく表れた1局だったと思う。

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