BLACKPINKのLISA、ソロ曲の2億回超えMVが強烈な理由 アジア的混沌と強い政治的メッセージ

出身地の名勝パノムルン寺院が登場 タイ全土が熱狂

 MV後半のハイライトは、米歌手のセレーナ・ゴメスとのコラボ曲「Ice Cream 」(20年)を踏襲するガール・ネクスト・ドア風のカラフルなイメージから黄金のきらめきへと転換する場面だろう。神殿で王冠をかぶったLISAは母国・タイの伝統文化を力強くアピールし、自身のルーツへの誇りと自尊心を見せつける。タイ人のYouTubeリアクション動画を見ると、「ギャー!」「これはタイだ!」と熱狂的な盛り上がりを見せておりタイのプラユット首相も高く評価した、というニュースが世界に打電されるほどだ。

 前出の男性は筆者に「タイ人たちが感動したのは、K-POPだからタイの文化は登場しないだろうと思っていたのに、タイの文化を広めてくれて新たな価値を国際的に高めてくれたから、非常にうれしく誇りに思って感謝もしている感じだと思います。僕もMVを5回ほど見ましたが、飽きないですね。LISAがタイの感覚をどう表現するのだろうと気になっていましたが、寺院や衣装でタイ文化を打ち出してくれて感動しました」と語った。

 タイパートに登場するセットは、LISAの出身地ブリーラム県にある歴史的建造物パノムルン寺院を模している。「How You Like That」の冒頭シーンでもLISAは神殿の階段に登場しており、敬虔(けいけん)で神秘的な雰囲気を引き継いだ格好だ。

多様性の尊重と揺るぎないアイデンティティー

 ファンの間からは「コンセプトを盛り過ぎ」「統一感がない」などの声も上がっているが、冒頭に登場する多言語の看板やBLACKPINKがこれまでに発表してきた楽曲へのオマージュからも分かるように、今回のソロ曲のMVは人間や文化の多様性尊重とBLACKPINKが歩んで来た道のり、そして自身のルーツへの誇りを失わないというLISAの揺るぎないアイデンティティーが表現されている。

 歌詞に数多く登場する「LALISA」とはLISAの本名(ラリサ・マノバン)のことだが、他方でそれは「称賛される者」を意味するタイ語でもある。中毒性の強い「LALISA、私を愛して」「分かってるでしょ? attitude」のリフレインはただ自分の本名を自慢げに歌っているのではなく、「称賛される者」が取るべき「attitude(態度)」とは何かを私たちに問いかけているのだ。そしてその「態度」こそが「LALISA」のMVの中で明確に示されているのではないだろうか。

ソロ曲のタイトルに驚愕の仕掛け

 これでBLACKPINKメンバーのソロ曲としては、JENNIEの「SOLO」、ROSEの「On The Ground」、LISAの「LALISA」の3曲が発表された。残すはJISOOだけとなったが、ソロ曲のタイトルについてファンの間ではある法則が指摘されている。各ソロ曲の頭文字を並べると「S」「O」「L」となるのだ。もしJISOOのソロデビュー曲のタイトルが「O」から始まれば「S」「O」「L」「O」=「SOLO」となり、メンバー4人のソロプロジェクトがきれいに完成する。BLACKPINKの多様な魅力を見せつける驚愕(きょうがく)の仕掛けと言えそうだ。

□鄭孝俊 元全国紙社会部記者、元スポーツ紙文化部デスク。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程在籍中。異文化コミュニケーション論、メディア論、日韓比較文化論が専門。成蹊大文学部、東京理科大教養部、慶応大文学部、東大教養学部自主ゼミナールの各ゲスト講師を歴任。

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