BLACKPINKのLISA、ソロ曲の2億回超えMVが強烈な理由 アジア的混沌と強い政治的メッセージ
日本語の「エレクトロ」はYMOへのリスペクト?
LISAがこの衣装を着ている場面の背景には日本語、英語、中国語、タイ語などさまざまな言語で書かれた看板が並び、アジア的混沌(こんとん)があふれる近未来都市を想像させる。タイ語の看板は「ファストフード的なタイ料理」を意味しているが、「エレクトロ」と日本語で書かれた看板にはどのような意味が込められているのだろうか。
エレクトロとは80年代前半に流行した電子音楽ジャンルのことで、K-POPも応用しているEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)など後年の音楽シーンに強い影響を与えた。この看板をよく見ると文字は黒だが、背景は黄色である。黄色=イエロー、エレクトロ=電子音楽、しかも日本語であること、さらには80年代音楽へのオマージュが入っていることなどを総合的に考えると、これは当時、世界的な人気を誇った日本の音楽グループ「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」へのリスペクトかもしれない。
警察のシーンに込められた強いメッセージ タイ反政府デモを意識
次の場面に移ろう。LISAはヘルメットをかぶってバイクにまたがりトンネル内を疾駆する。四輪バギーで砂漠を走り回るシーンも登場する。MVの後半に「catch me if you can(捕まえられるものなら捕まえてよ)」という歌詞が登場することから、社会的束縛からの自由やタイから韓国へ渡ったLISA本人の冒険心を表現している、と考えられる。
さて、注目度が高い警察の乱入シーン。何かを取り締まるためにやって来たようだが、この場面の歌詞に着目すると別の意味がありそうだ。“声を上げよ”“大切な人に手を出したら黙っていない”と歌うLISAの姿からは束縛に屈しない人々の抵抗の姿勢が表現されているように見える。
日本に留学経験があるタイ・バンコク在住の20代男性は「警官姿のLISAがメガホンを持って他の警官と踊るシーンですが、タイの反政府デモの状況を表しているのではないかとタイ国内でも話題となっています。いまタイの若者は警察に不満を持っているからです。LISAのアイデアの可能性が高いですね」と指摘する。
「POLICE」と「POLISA」の二重構造
確かに、この場面のセットには床に大型スピーカーが何台も配置されており、抵抗する人々の声の拡張を象徴しているかのようだ。しかも、警官の胸の文字をよく見ると「POLICE」ではなく「POLISA」だ。「POLICE」と「POLISA」には意味を180度転回させる二重構造が隠されている。LISAが率いる「POLISA」には警察への批判的な視線が見え隠れする。もしそうならば、巧妙に考えられた強い政治的メッセージと言えるだろう。メガホンは「WHISTLE」(16年)のMVにも登場している。
タイでは若者が政権の民主改革を求めたり新型コロナウイルス対策を批判したりする反政府デモを繰り広げており、警察がデモ参加者にゴム弾や催涙ガス弾を発射するなど衝突が続いている。2000年代に入ってから若者の間で韓国文化が浸透。ドラマに続いてK-POP、ファッション、コスメなどの人気に火が付き、少女時代、SUPER JUNIOR、BTSの非公式ファンクラブが反政府デモ隊に寄付をする行動が見られた。昨年はK-POP男性グループ・2PMのメンバーでタイ人の父親を持つニックンがツイッターに「暴力を黙って見過ごすことはできない」と投稿し警察によるデモ隊の強制排除に懸念を示した。