古田新太が目指した“何もしない”俳優、7年ぶり主演で見せたモンスター父親役のすごみ
古田「若いとポケットに手を入れたり、腰に手をやるけど、それもしない。これが一番怖いんです」
吉田監督をうならせたのは、スーパーの脇で立っているだけのシーンだ。「ただ電信柱に立っているシーンがまがまがしい。すごみがあるんです。どうやって、スイッチを入れているのかなと思ったんですが、移動した後もまったく同じように立っているから、ただ単に立っているだけなんですよね。でも、この演技力は……と思わせてくれる」と言うと、古田も「そう、ただ立っているだけです。何を考えているのか分からないから、何もしてない人が一番怖い。どこでも現場でもそうなんですけど、何もしないということをします。すると、監督や共演者が勝手に解釈するから」と手の内を明かす。
しかし、役者にとって、何もしないというのは難しいはずだ。「昔から、何も(演技を)しない俳優になりたいと思っていました。笠智衆のような存在になりたかった。役者っていうのは、何かしちゃおうとするものなんです。無防備でいられる人は相当な自信がないといられない。オイラも年を食ってきて、そろそろいけるかなって。体力がなくなるのに反比例して、そういう威力みたいなものが出てきた。若いとポケットに手を入れたり、腰に手をやるけど、それもしない。これが一番怖いんです」。
本作は吉田監督のオリジナル脚本。「原作の役に近づける必要がないから、のびのびできます。原作があると、そのイメージがファンの人にあるし、オイラも縛られるタイプ。こう見えて、原作ファンからも褒められたいところがあるので、原作のイメージからあまり逸脱したくないんです。今回は監督にさえ褒められればいい話。それは楽しかったです」。
撮影中、古田の名演には泣かされたという吉田監督も、出来栄えに自信を持っている。「ここがオレの人生のピークだと思っている。後は下り坂かもしれないから、全力で抗いたい」と言えば、年上の古田は「オイラはとっくに下り坂ですけどもね」と笑う。最後に「試写を観て、かわいそうな人しか出てこない映画だなと思った。でも、最後には、こんな奴にも監督は救いの手を差し伸べる。やられた。意地汚いんですけど、今はお客さんにいっぱい観てくれたらいいなという気持ちです」と映画の座長として、大ヒットを願っていた。
□古田新太(ふるた・あらた)1965年12月3日、兵庫県出身。主な映画出演作に、「木更津キャッツアイ」シリーズ、「超高速!参勤交代 リターンズ」「土竜の唄 – 香港狂騒曲」「脳天パラダイス」「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」など。テレビドラマに、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」、「逃げるは恥だが役に立つ」「俺のスカート、どこ行った?」「小吉の女房」シリーズ、「半沢直樹」シリーズ、NHK連続テレビ小説「エール」など。
□吉田恵輔(よしだ・けいすけ)1975年5月5日、埼玉県出身。東京ビジュアルアーツ在学中から自主映画を制作し、塚本晋也監督作品の照明を担当する。2006年に「なま夏」を自主制作し、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門のグランプリを受賞。08年に小説「純喫茶磯辺」を発表し、自らの手で映画化する。その他の監督作品に、「メリちん」「机のなかみ」「さんかく」「ばしゃ馬さんとビッグマウス」「麦子さんと」「銀の匙 Silver Spoon」「ヒメアノ~ル」「犬猿」「愛しのアイリーン」「BLUE/ブルー」など。
○古田新太
ヘアメイク:田中菜月
スタイリスト:渡邉圭祐