解説の魔裟斗も絶叫! 物議を醸した青木真也戦の勝者・自演乙が引退直前に10年前の真相を激白
青木真也との伝説の一戦を回想「やりよったな、こいつ」
さて、長島といえば、強烈なインパクトを残した試合の筆頭に挙げられる試合がある。それは10年大みそかに実現した“バカサバイバー”青木真也とのMIXルール戦である。当時、青木は「DREAM」というMMAルールの団体のエース。つまり「総合格闘技と立ち技」のそれぞれでトップを走る両者が闘ったらどうなるのか。実際、長島自身も「一番印象深い試合」としてこの試合を選んでいた。
「あの試合、俺のファン以外は誰も俺の勝ちを予想してないでしょ。ただ、気負ってはいなかったし、無理だったら無理で、腕の一本くれてやろうみたいな感じでしたね。はよタップしたらハズしてくれるかな。青木真也だったら一瞬で折ってくるやろなあとかそんなのは考えましたよ」
念のために説明しておくと、日本で時折行われるMIXルールとは、1Rが3分間のキックボクシングルール、2Rが5分間のMMAルールで実施される試合のこと。フルタイム闘って決着がつかなかった場合は判定をつけずに引き分け。つまりK-1王者の長島としては、2Rになってしまうと勝てる可能性が極めて低くなってしまう試合形式となる。
「確かに1Rしかないんですよね。あのときのルールは、確かフリーノックダウン。しかも(ボクシンググローブと違って)オープン・フィンガーグローブだったら効かないじゃないですか。吹っ飛ぶ系になるから、逆に難しいと思いましたけど、そんな(細かいことを)考えられる選手じゃないですからね。『Dynamite!!』のリングで戦えるなら、誰とでもやるッスよ」
そんな面持ちで迎えたリング上だったが、長島は青木の起こした行動に衝撃を受けた。青木は1Rの3分間を逃げまくったのだ。しかもそれがあからさまな逃げ方だったため、会場中の観客からブーイングが湧き起こる。
「こいつやりおったと、そりゃあ思いましたよ。警戒はしてましたけどね。あそこまで露骨ではないにしろ、クリンチングと、かけ逃げ的なもんはあるやろうなと思いましたけど、まさかあそこまで露骨なのはイメージになかったですね」
「長島戦は僕のベスト」(青木真也の著書『空気を読んではいけない』より)
とはいえ、長島の言葉を借りればある程度は想定していたことになるが、そこには明確な理由があった。
「(会場である)さいたまスーパーアリーナで、僕のセコンドが(青木が)こんなウオーミングアップをしていたよって」と耳打ちされたのが、試合直前の青木が、飛び蹴りやドロップキックの練習をしていた場面だった。
果たして、青木が3分間を逃げ切った際の会場中の落胆の声が長島にも聞こえていた。
「1Rが終わった後、すげえ変な空気だった気がする。『ああ…』みたいな」
長島からすれば、1R中に仕留められなかったのだから、わずかな望みをかけて、実行するしかなかった。
「頭の中で千回くらい『ヒザ蹴り』『ヒザ蹴り』……って。『フェイントかけてヒザ蹴り』って。暗示っすね」
そして迎えた2R目、長島の読みがピシャリと当たる。開始早々、青木が長島に組みつこうと、状態を落としてタックルを仕掛けて来た瞬間、長島はそこに合わせてヒザを突き出すと、そのまま青木の顔面に直撃。思わず青木が倒れたところに、長島はトドメのパウンドを何発も打ち下ろした。長島にとってもまさかのKO勝利だった。
「ね? あれを失敗したらすぐにタップしようと思ってたのにね。寝技になったら勝てるはずがないじゃないですか。逃げるはずもないし」
とはいえ、長島にとってはまいたエサに青木が食いついて来たような感覚があった。その理由を長島が述懐する。
「青木真也の性格というよりスタイルを考えたんです。(青木VS)桜井“マッハ”速人戦やったかな。マッハさんがメチャクチャ圧力をかけたら、倒そうとするんじゃなく、とりあえず組みついてくるみたいな。僕は青木戦の前にいろいろと研究しとったんで、じゃあ、自分から仕掛けたら組みつきに来るんじゃないかと思っていましたね」
つまり長島とすれば、1Rの段階で布石を打って、「仕掛けて」いたというのである。
「結果的には1Rにガッツリ仕掛けて、そのイメージがあったから、自分から仕掛けたときのフェイントが大幅に効いたとは思いますけど。相手がタックルに来るから仕掛けたんじゃなくて、自分から仕掛けて、相手がタックルに来ることにかけたんです。タネ明かしをすると」
興味深いのは、青木の著書「空気を読んではいけない」(幻冬舎刊)に、以下のような記述が見られることだろう。
「今までのベストを挙げるならば、長島☆自演乙☆雄一郎選手との戦いになる」
もちろん、「負けた後の1年間は苦しかったし、文字通り『地獄』に落とされたような気分にもなり、試合を見返すこともできなかった」とあることから、それなりの時間を要したものの、いつしか青木は「負けを転がして、自分のイメージにしないともったいない」という境地にたどり着いたらしい。
実際、長島もそのニュアンスを感じ取ったのか、「そう(ベストと)言わなしゃあないんちゃいますん?」と想像しながら、「あの人からすれば失敗だったんでしょうけど、失敗が長所になれば完璧でしょう。(青木は)逆張りオジサンですけど、格闘家としては完璧でしょう」と言葉をつないだ。