飯伏幸太、「プロレス少年がそのまま大人に」は過去の姿 近づく「ミスタープロレス」への道【連載vol.59】
こらえきれなかった。涙がこぼれ落ちる。リングに戻れた喜びの涙か、それとも復帰戦の舞台にタイトル挑戦を用意してくれた棚橋弘至への感謝の涙か。「ゴールデン☆スター」飯伏幸太の「男の涙」が、ゴング前から輝いていた。
WWE行きを断念「日本のプロレスを大きくしたい」
こらえきれなかった。涙がこぼれ落ちる。リングに戻れた喜びの涙か、それとも復帰戦の舞台にタイトル挑戦を用意してくれた棚橋弘至への感謝の涙か。「ゴールデン☆スター」飯伏幸太の「男の涙」が、ゴング前から輝いていた。
新日本プロレス9・4、5埼玉・所沢市メットライフドーム2連戦の初日(4日)のメインイベントIWGP USヘビー級選手権が、飯伏にとって忘れられない一戦となった。
7・25東京ドーム大会のIWGP世界ヘビー級王座挑戦を、誤嚥(ごえん)性肺炎による体調不良とはいえ、決戦当日にキャンセル決定。プロとしてこれほどの屈辱はない。代役を買って出てくれた棚橋は「エース復活」を思わせる好ファイトで、見事に飯伏の穴を埋めてくれた。
新日本プロレス入りする前から、耳にしていた「エースの存在感」を、後輩になってから、いよいよ思い知らされた。「棚橋さんはスゴイ。いつもファンを、新日本プロレスを、いやプロレス界のことすべてを考えている」。飯伏もプロレスへの強い思いは、人に負けないという自覚も自負もあったが、上には上がいた。いや次元が違っていた。
対戦しコンビを組み、棚橋のエース哲学を学んだ。かつて「プロレス少年がそのまま大人になった」と評されていた飯伏はもういない。「自由奔放でマイペースな若者」は「大人」になっていた。
だからこそ7・25決戦の欠場は悔しかった。情けなかった。「もう戻れない」と思いつめた時もあったはずだ。そこに棚橋が手を差し伸べてくれた。コンディションが戻らない中、現状でできる限りのことをした。飯伏らしい体型をキープしたものの、少しばかりスリムだった。それでも全身全霊、必死に戦った。棚橋に敗れはしたが、手ごたえは十分つかみとれた。
これで、飯伏はまたエースへの階段を一歩上がったはず。棚橋と並んで「神」とあがめていた中邑真輔が米WWEへの道を選択したとき、飯伏にも声がかかっていた。正直、心が揺らいだが「日本のプロレスを大きくしたい」という思いが勝った。