eスポーツにも「ステップアップできる仕組み」が必要 ウイイレプロゲーマーが見る現在地
日本のeスポーツシーンに必要なのは「草の根の部分から上位層につながっていくような制度」
日本屈指の人気タイトルである「ウイイレ」で頂点を極め、傍から見れば順当な形でプロ選手となったKaraage。サッカー公式戦でのイベント参加など、さまざまな活動を精力的に行い、充実の日々を過ごす一方で、日本のeスポーツシーンの現状には課題を感じることもあるという。
「ウイニングイレブンだけの話ではないのかもしれませんが、eスポーツに“もったいない”と感じる部分はあります。例えばリアルスポーツの野球やサッカーは、少年野球や少年サッカーから始まって、乗り越えていくものが段階的に明示されています。甲子園や高校サッカーなど、『こういうところをたどっていけばプロになれる』ということが、誰にでも分かると思います。でも、eスポーツでは一般の方から見ると『どうやってプロになるの?』となりますし、これはゲームを好きな方でも同じ見方かもしれません。
子どもたちが『プロになりたい』『上を目指したい』となったときに、段階的に乗り越えていくもの、大会やリーグのような、草の根から少しずつステップアップしていける仕組みがeスポーツにもあると、競技シーンを目指す方のモチベーションも高まると思います。これは観戦者にとっても同じです。選手のストーリーや努力が目に見えて分かりやすくなり、より感情移入して応援しやすくなると思います。今のeスポーツシーンはプロの上位層の部分だけがすごくピックアップされていて、そこから広がっていることも理解していますが、草の根の部分から上位層につながっていくような制度が出来上がると、さらに盛り上がるのではないかと感じています」
プロシーンの観戦者の盛り上がりのためにも、草の根の整備が必要という視点。自身はオンライン対戦をきっかけに本格的な取り組みへと発展したが、前述のように当時から道が用意されていたわけではない。子ども時代からサッカーに親しみ、横浜F・マリノスを応援してきたKaraageは、その重要性を力説する。
「そうなることで、身近に感じられると思うんですよね。例としてサッカーなら『高校サッカーを乗り越えてきたんだな』と想像が付いて、自分たちと重ねられる部分がある。『自分たちの経験したことを、より高いレベルでやっていたんだ』というリスペクトから、『すごいな』と実感して、観戦することを楽しめるのだと思います。eスポーツではなかなかそのように感じられない部分があるのも事実だからこそ、より良い環境になっていくといいなと思うところです。それに、今は実力があってもタイミング次第でプロになれないということもありますし、実力のある選手が正当に評価される仕組みが欲しいですね」
もちろん、全体の仕組みはすぐに変えられるものではなく、理想の実現のためにはさまざまな障壁もあることだろう。近道はない中で、Karaageはゲームの面白さ、競技としての楽しさを伝えることに真摯(しんし)な姿勢を貫くつもりだ。
「ウイニングイレブンは一昔前なら誰でも触っていたタイトルでしたが、今はゲームの数も増えてきて、若者が当たり前のようにやるゲームでもなくなってきたように感じています。その中でF・マリノスでのイベントなどでは、ゲーム好きだけが集まるわけではないサッカースタジアムのような場所で、eスポーツの体験会をやらせていただくこともあります。若い方たちがウイニングイレブンに触れたときに、どこが面白いのかをより分かりやすく教えたりするなど、普及活動は一生懸命やっていきたいと思っています。
また、私はウイニングイレブンの大会の解説もやらせていただいています。世界大会の解説もしましたが、もっと小さな大会の解説で、ゲームにそこまで馴染みのない方が見ても『こういうところが面白いんだな』『この駆け引きが難しいんだな』と分かりやすく伝えられるようにしたいです。選手としてはもちろん、インフルエンサー的な役割もしっかり果たしていきたいと思っています」
□Karaage/1991年7月22日、新潟県出身。JeSU(日本eスポーツ連合)公認プロライセンス所有。eFootball Open 2020 日本代表、PES LEAGUE WORLD TOUR 2018 アジアラウンド日本代表、WESG(World Electronic Sports Games)2018 優勝、PES LEAGUE 2019 日本ベスト4、Red Bull 5G 2016 西日本代表など、「ウイニングイレブン」競技シーンで数々の実績を持つ。