【欧州車紀行・北仏9】間違えて迷い込んだトゥルーヴィルは「港にできた築地かアメ横」
車でマイペースな旅で豊かな気分に
それから「男と女」のドーヴィル海岸に向かった。パリでタクシーの運転手が教えてくれたアプリ、wazeのナビを利用、ものの数分で横に広がるビーチに到着した。砂浜には屋根が赤の六角形、側面が青のテントのコテージがズラッと並び、その手前に板張りの遊歩道レ・プランシュが続いている。それと並行して2畳分ほどだろうか、更衣室が並び、ハリウッドスターなどの名前が書かれたついたてが仕切りになっている。クリント・イーストウッド、チャールストン・ヘストン……。
さらに、パーキングのゲート前のカジノをのぞいて、競馬場まで足を伸ばした。その日は開催はなかったが、入口が開いているので中に入り、金網越しに馬場を眺めてみる。ゆっちゃんは競馬場のパーキングの真ん前にあった花とリンゴの木の庭に囲まれた大きなお屋敷に入り、9月のドーヴィルの花々を写真に収めた。オンフルール着は午後6時。バイユー、オンフルール、ドーヴィルの3都市をそれほど急ぐこともなく車で移動し、とても豊かな気分になれた。
オンフルールはパリから、翌日訪れる予定のジヴェルニー、ルーアンまで続くセーヌ川の河口にある港町だ。河口は三角州になっていて、さらに奥の四角い旧港を囲む街並みはレンガ色のグラデーションのような建物が並び、水面に映し出され、夜は昼とはまったく異なる趣になっている。
「今日はもっとオマールを食べたい。トゥルーヴィルで見たのは、大きくていかにも食べでがありそうだったわ」
「ここでもムールを食べなきゃね。今回の旅行では3回目」
旧港にはヨットが停泊し、岸壁に沿って出店のテントが張られ、通路を隔てて店舗が軒を並べる。メニューを見ながら1周し、決めたのは右手中ほどの店。予定通りオマールエビとムール貝のオンフルールの夕べ。白のカラフ(水差し)、オンフルールはカルヴァドス県に位置するカルヴァドスの産地だから、やはりストレートでグイっと。
近くに三角の小さな広場があり、クラリネットの路上ライブをやっていた。その前には小さなカルヴァドスのバー。運転の疲れを癒すもう一杯のカルヴァドス。窓に映る港の薄灯りの中……ノルマンディーの3日目の夜はふけていった。